2011年 10月



10月 27日 2011

飴細工のように“ぐにゃり”とひしゃげた痛々しい橋の欄干。その下をゆっくりと流れる片岸川の水面が、秋晴れの陽に照らされてキラキラと輝いている。身を乗り出すように覗き込むと、そこには濃緑の澄んだ流れにあらがうように上流を目指す鮭の姿があった。大海原を数千キロも旅を続けた末に、ようやく辿り着いた故郷の変わり果てた姿は、鮭たちの目にどんな風に写っているのだろうか。

今年も唐丹町片岸川の鮭は帰ってきてくれた

今年も唐丹町片岸川の鮭は帰ってきてくれた

東北自動車道北上江釣子I.C.から遠野市を経由してさらに東へ向かい、内陸部と沿岸を隔てるように聳える仙人峠の長いトンネルをくぐり抜けた先が “製鉄と魚とラグビーの町” 釜石市だ。3.11大震災の津波で甚大な被害を受けた事は誰もが知る所だろうが、実際に訪れて見ると7ヶ月を過ぎた今でも、壊れた信号機の代わりに手信号で交通整理をしている警官、今にも崩落しそうな建物が並ぶ商店街、うず高く積まれた水没車や瓦礫の山。凄惨な爪あとをいたるところで目にする。進まない復興の現状を目の当たりにしながら隣町「唐丹(とうに)」を目指した。

瓦礫が積み上げられた水産技術センター跡

瓦礫が積み上げられた水産技術センター跡

“鮭と和布の町”として知られる釜石市唐丹町にある片岸川は、数多くの鮭が遡上する川としてつとに有名で、紅葉の盛りを迎える今の時期には、水しぶきを上げながら川幅いっぱいに群泳しながら上流を目指す鮭の姿が毎年のように見られていた。しかし唐丹町は3.11大震災で20mを越える大津波に襲われて防波堤が崩落し、海岸付近の漁業施設や住宅は勿論、大切な多くの人命までも奪われてしまった。さらに津波の勢いは停まる事を知らず川沿いの平地を遡り、鮭の採卵場や稚魚を飼育する施設も全て奪い去り、鮭の故郷である片岸川は瓦礫に埋もれてしまう。

鮭を蘇らせるために奔走する唐丹町漁協の活動を知ったのは8月末頃の事。唐丹町では帰って来る鮭のために瓦礫を片付け「さけ人工ふ化場」再建に向けて動き出しているという話を岩手に居る友人から聞いた。しばらくして三陸沿岸の各河川で鮭の遡上が始まったとの知らせを受け、エコミッション2011@ジャパンで唐丹町を訪ね、お話を伺いたいと漁協に連絡を入れた。電話口で快く応じてくれたのが鮭を担当している指導課長の新沼さんだった。張りのある若々しい声の主に会える日を楽しみにしていた我々は「唐丹漁港」の看板を左折して坂を下り、漁協の建物を目指して港町へ入ると、真新しい白い建物が見えてきた。
空き地にプリウスPHVを停車して防波堤が崩れてしまった港を見ていると、クルマがこちらへ近づいてきて白髪をオールバックにした紳士が降りてきた。“どうも、こんにちは” 聞き覚えのある張りのある声、唐丹町漁協の新沼さんだった。

鮭復活への熱い思いを語る新沼さん

鮭復活への熱い思いを語る新沼さん

漁協の建物に招き入れていただき挨拶を済ますと、新沼さんが震災当時からこれまでの経緯を話し始めた。

「津波の第一波が防波堤を越えて、ナイヤガラの滝みたいに町の方へ流れだして地面を掘ったんです。それで引き波で防波堤が崩れた。第二波はさらに高くて20m以上、この高台にある事務所の一階も水びたしでした。その波が、ふ化場のある川の奥まで到達した後、引き波が全てを海に運んで何も残っていなかったんです。唐丹は鮭の町ですから一時は途方に暮れましたが、何とかしなきゃいけない。再建しようという決断は早かったですよ。もう4月には船の発注から、ふ化場の計画までやる事は決めていましたから。何をするべきかは全部解っています、震災前に戻せばいい訳です。合図の旗を振ればみんなが一致団結して頑張れるものです。ですから先頭に立つ人間が “やる!” と言えるかどうかが大切でしょうね。幸いにも唐丹町漁協のトップはそれが出来た。」

震災前の美しい唐丹港や鮭漁の写真をテーブルに広げて見せながら、力強く自信に満ちた言葉で続けた。

「鮭は毎年この時期に帰ってきますから、準備する時間は限られています。今年帰って来る鮭の卵から稚魚を育てて放流できなければ、3年後には途絶えてしまうんです。何としても間に合わせなければ、再建はさらに困難になります。だからみんなで頑張れたんだと思います。去年までの半分以下の規模ですが、途切れずに続けて行く事ができれば、段々と増やすのは難しくないと思います。これから案内しますので、一緒に現場を見に行きましょう。」

クルマを連ねて片岸川の採卵場へ到着すると、鮭を取り込む木製の台を仕上げる作業に大工さんが汗を流している。川に仕掛けられた定置網を覗くと、たくさんの鮭が頭を振りながら網を乗り越えようとする元気な姿に思わず “うわ、すごい!”と声をあげてしまった 。確かに唐丹の鮭は故郷の川へ帰って来たのだ。その後、少し上流に建設中のふ化場と稚魚飼育施設を見せていただいたが、すでに水路の防水塗装作業も大詰めで、孵化までに完成に漕ぎ着けそうでひと安心しているとの事。限られた時間の中で、これほど立派なものが出来たものだと感心させられた。来年の春には6cm程に成長した稚魚たちを、地元の小学生と共に放流するのを今から楽しみにしていると語る新沼さんの嬉しそうな笑顔がたまらない。

宝石のように輝く鮭の卵たち

宝石のように輝く鮭の卵たち

遮光カーテンで仕切られた建物に案内されると、片岸川の清流を取り込んだ水槽がずらりと並ぶ薄暗い部屋で、採卵したばかりの受精卵がで大切に飼育されていた。フタを開けて見せてくれたが、中は宝石のように輝く卵がぎっしり。一日の採卵数は50万粒程で、近年の技術革新で生存率も上昇し、9割以上が稚魚として放流されているという。

「採卵は21日にスタートしたばかりで、これから数を増やして行く予定です。何とかここまで来れましたから、順調に行って来年にはできるだけたくさんの稚魚を放流したいですね。」

そう語る新沼さんの表情は、できる事をやり遂げた自信と、これからやらなければならない事への責任感に満ちていた。

“鮭よ帰れ”と奔走する釜石市唐丹町漁協を訪ねた

Music by DEPAPEPE

唐丹漁協のように復興への足がかりを掴みかけた所でさえも、次のステップへ進む上で、行政のスピード感の無さが弊害になっている。例えば震災で失った船を新造・修理するにしても、一定の補助金が出るという話は出ているものの、支払いを先に済ませないと前へ進めないため、漁協や個人の負担が多すぎてどうにもならない。船や漁具を調達する目処が立たず、やむなく廃業に追い込まれるケースも増えているいう。行政には、いち早く生活基盤の保証に着手して、日本の食卓を支えてきた東北の漁業をバックアップして欲しいと願うばかりだ。

唐丹町漁協から、是非伝えて欲しいと言われたのが「密漁問題」。
震災以降、監視が手薄になっているのに付け込んで、漁協組合員以外がせっかく帰って来た鮭を捕まえたり、磯場へ潜ってサザエやあわびを密漁する不届き者が増えている。鮭も貝類も自然のものではなく、漁協が大変な労力と資金を注ぎ、放流して管理する“畜養漁業”の産物で、密漁は重大な犯罪。万一見かけた方は、すぐに漁協または地元警察に連絡してほしい。尚、取り押さえるなどの行為は危険が伴う場合があるので、通報のみに留めていただきたい。


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10月 26日 2011

平安杉の倒木から新芽が吹いていた

平安杉の倒木から新芽が吹いていた

東北自動車道を北上していると、回転灯を忙しなく点滅させながら物資や人員を載せた自衛隊や警察車両を頻繁に目にする。震災から10ヶ月以上経った今でも、崩れた切通しがブルーシートで覆われ、段差や陥没で危険な箇所の復旧工事が続いていた。上下線とも車線規制のために渋滞が頻発して移動時間が予想できない中だが、6月に世界文化遺産に登録されたばかりの「平泉」に立ち寄る事にした。これまでに何度か訪れた事のある平泉だが、東日本大震災直後の世界遺産登録という嬉しい知らせを受けて、岩手県の「復興のシンボル」として期待を寄せているという報道があったのを思い出し、どんな状況かを見てみたいと東北自動車道を降りて国道4号線沿いの「中尊寺」へ向かった。

1993年、法隆寺や姫路城、屋久島とともに日本で最初に世界遺産に登録された自然遺産「白神山地」に続き、今年6月に世界遺産リストに登録された東北地方初の文化遺産「平泉」は、数年前に申請が一度却下された経緯から、登録範囲を限定して再審査を受けたため「平泉 – 仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」という長々とした名称で登録されている。

続々と到着する観光バスから人が溢れ出す

続々と到着する観光バスから人が溢れ出す

参道入口付近は人が溢れんばかりの賑わいで、駐車待ちの車列が延々と続いている。行ける所まで進もうと細い山道を登ると、すれ違うのは大型観光バスばかりなので、この先にはバス専用の駐車場しかないのではと心配したが、上り詰めた先に砂利敷きの小さな「坂の上駐車場」を発見、数台の空きがあったのでラッキーとばかりにプリウスPHVを停めた。マップを確認すると、一番の見所「金色堂」にも近いのにあまり知られていたいのだろうか、出車の時にも混雑している様子は無かったので、中尊寺参拝の折にはメインの駐車場が混雑していなくても、是非おすすめしたい駐車場だ。ここから少し下った場所には観光バスの降車場があり、県外ナンバーが混じる大型バスが続々と到着すると、旗を振るガイドに引率された観光客が降りてくる。平日にも関わらず「大挙」という言葉がぴったり来る程の混雑ぶりで、それが拝観券発行所のある「賛衛蔵」まで数百メートルも続く。「金色堂」前では主拝道「月見坂」を登って来た拝観客と合流して大群衆が出来上がり、祭りさながらの賑わいにはいささか閉口させられた。

どちらを向いても観光客だらけ

どちらを向いても観光客だらけ

みちのくの古都平泉が「復興のシンボル」としての役割をこれほどまでに成し遂げているとは思いもよらなかったが、「世界遺産」という冠名のチカラを改めて感じ、驚きと同時に嬉しさがこみ上げてきた。それは経済効果もさることながら、郷土の誇りとして平安時代から受け継いで来た伝統・文化が、世界に認められ、注目されているという事が心の支えになっていると感じたからだ。これから先も続けて行かなければならない長い長い復興の道筋を照らすように中尊寺「金色堂」は光輝いていた。

世界文化遺産認定で活況の「平泉中尊寺」

Music by DEPAPEPE

明日は「被災地三陸海岸に戻ってきた鮭を支える人々」を予定しています。
ご期待ください。


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10月 25日 2011

先日訪ねた“最北端のGazooMura”北海道下川町から初雪の便りが届いた。冬の到来を間近に控え、今シーズンの冬タイヤ選びを考えている方も多いと思うが、グッドイヤーが主力スタッドレスタイヤとして好評を得ている「アイスナビゼアll」の走行性能を知ってもらおうと、トヨタ部品茨城共販主催、日本グッドイヤーのサポートの下、茨城県下の販売店各社を招いてアイスバーン走行体験&トークイベントが開催された。

スケートリンクは気温8度と冷え込む

スケートリンクは気温8度と冷え込む

3台の大型バスに便乗した販売店の方々がイベント会場の「磐梯熱海アイスアリーナ」に到着。アイスバーン走行体験が行われる屋内スケートリンクに集合していただき、トヨタ部品茨城共販の神賀部長の挨拶でイベントがスタートした。固く引き締まった氷の張る会場の温度は8度とかなり冷え込むため、参加者全員が真冬の装いだ。氷上では、グッドイヤー「アイスナビゼアll」と競合他社のスタッドレスタイヤを履いた3台のクルマが準備され、「発進」「スラローム」「制動」と、タイヤ性能を計る各セクションが設けられている。コース説明の後、いよいよ試乗会がスタート。いわゆる「ブラックアイス」のツルツル路面を想定した氷上走行だが、近年のスタッドレスタイヤは驚くほど路面を捉え、普通の舗装路を走っているようにスムーズにコースに並ぶパイロンの間をすり抜けて行く。しかし、タイヤの限界を知るためラフにアクセルを開けて見ると、たちまちタイヤは空転してあらぬ方向にクルマが滑り出し、コントロールが難しくなる。いくら高性能スタッドレスタイヤを履いているとはいえ、アイスバーンや圧雪路では「ゆっくり発進・ゆっくり回頭・ゆっくりブレーキ」が基本である事も体験してもらっていた。

発進、スラローム、制動を試した

発進、スラローム、制動を試した

プリウスPHVが充電している様子を見てもらおうと、会場の玄関先に停めてケーブルのセッティングを済ませ、トヨタ部品茨城共販の神賀部長に“プラグイン”していただいた。“カチッ”という手応えの後、充電量を見えるように開発した「エナセンサー」の電気料金のカウンターが動き出すと、周囲に集まっていた皆さんも興味深くそれを見ていた。クルマ業界の方ばかり集まったイベントだが、一般発売前のプリウスPHVを初めて見る方がほとんどで、充電時間や走行可能距離などの質問はもちろん、エンジンルームや荷室の隅々までチェックが及び、発売が間近に迫ったプリウスPHVを知っていただく良い機会になった。

燃費や充電時間などに質問が集中する

燃費や充電時間などに質問が集中する

別棟の会議室では「エコ・トークイベント」と銘打って、我々チームACPがこれまでに巡ってきた各地の環境最前線や、プリウスPHVが開く新しいエネルギー社会に関する講演が行われた。参加された皆さんには、プロジェクターに映し出される世界中の写真を見ながら、話に耳を傾けていただいた。20代とおぼしき熱心な参加者も多かったので、若いチカラでクルマ業界を牽引する次世代の活躍にも期待が持てるだろう。「スタッドレスタイヤ販売講習」を含めた各プログラムに、参加者多数のため3つのグループに分かれて交代で参加しながら、クルマ業界の“冬仕度”とも言えるイベントは陽が落ちて暗くなるまで続いた。一般の方が参加することはできないが、クルマを運転する全ての方々のために、業界関係者がこういったイベントで新しい知識を得ようとする熱意が感じられ、有意義な時間を共有する事ができた。しばらくするとこの周辺も雪景色に変わり、グッドイヤー「アイスナビゼアll」が活躍する日も近いだろう。雪道ではくれぐれも「ゆっくり発進・ゆっくり回頭・ゆっくりブレーキ」を忘れずに。

スタッドレスタイヤ試乗会&トークイベント@磐梯熱海アイスアリーナ

Music by DEPAPEPE


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