原子炉の実物大模型が出迎える。

停まったままの原発と揚水発電所「浜岡原発」

停止した浜岡原発PR展示施設「浜岡原子力館」
停止した浜岡原発PR展示施設「浜岡原子力館」

海岸線を御前崎へ向かう途中、幾つもの大型風車が風を受けてゆっくりと回るのが見えてきた。70メートル級だとすれば1基当り最大2.5〜3Mwhぐらいだろうか。この先5kmほどに、2011年5月に全ての原子炉を停止した浜岡原発がある。

原発には決まってPRのため展示館が併設しているが、今も公開しているのだろうか。ふと思い立って電話してみると平常営業しているとの事。せっかく側まで来ているので浜岡原発の“今”を見る事にした。

エントランス付近は予想通りの厳重な警備体制が敷かれている。視察に来たのだろうか、大型バスから官僚と思しきスーツを着た男性がぞろぞろと降りて原発建屋の方向へ歩き去った。何とも物々しい雰囲気の中、併設している「原子力館」へ向かった。

浜岡原発のエントランスは厳重な警備体制だ。
浜岡原発のエントランスは厳重な警備体制だ。
発電所と原子力館の分岐
発電所と原子力館の分岐
役目を終えたタービンが屋外展示されている。
役目を終えたタービンが屋外展示されている。
見学者もほとんど居らず閑散としている。
見学者もほとんど居らず閑散としている。

緑をふんだんに取り入れた公園内にある「原子力館」は一言で表現するなら“立派な”建物。しかしボク達の他に来場者は2、3名しかおらず、大きな建物だから余計に閑散とした印象が強くなる。半ば貸し切り状態だが、要所には制服を着た警備員の目が光る。

ホールを抜けて展示室に入ると実物大の原子炉模型が強烈な存在感でそびえ立っている。規定出力100万kwhを発生させる「沸騰水型軽水炉Mark-1」だ。ここへ来る途中に見た巨大な風車の400基分にも相当するエネルギーを生み出すのだから、恐ろしささえ感じてしまう。

原子炉の実物大模型が出迎える。
原子炉の実物大模型が出迎える。
基礎工事に使用された直径5cmの鉄筋
基礎工事に使用された直径5cmの鉄筋
こちらは縮小スケールで発電設備全体が分かる模型
こちらは縮小スケールで発電設備全体が分かる模型
制御室の計器類も忠実に再現されている。
制御室の計器類も忠実に再現されている。
原子炉の中央部分が海抜ZEROにあたる。
原子炉の中央部分が海抜ZEROにあたる。

原子炉の原寸模型を堪能した後、エレベーターで展望フロアへ上がり、発電所を眺めた。原子炉のある建屋は全部で5つ。1、2号機はすでに廃炉に向けて解体準備が始まっているが、点検中で“あの日”を迎えた3号機、当時の総理の命で運転を停止した4、5号機は、何時来るやも知れぬ再稼働の日を待ちわびているのかも知れない。

ただ黙って眺めながら、原発の余剰電力を糧にして稼働していると言われている“揚水発電所”に思いを馳せた。

揚水発電とは、夜間電力で水をくみ上げて上部調整池にためておき、需要の多い昼間に落水して発電する。出力を調整できない原発は、ほぼ最大出力のまま突っ走る発電方法のため、夜間は電気が余るのだ。揚水発電はその有効活用策。

揚水発電の詳細については、先日の「新豊根ダム」など3カ所訪問しているので以下を参照していただきたい。
沼っ原発電所
奥多々良木発電所

そもそも揚水発電では、上池に水を汲み上げる時に使用する電力の7割程度しか発電できないため、揚水発電と原子力の両者は不可分の関係にあると言える。

発電コストが発電量を上回る揚水発電だが、何度も停電の危機を救っているのも事実だ。水を上池に汲み上げるというのは、巨大なバッテリーに充電するのと同じ事。全国に40箇所以上もある揚水発電所の上池は満水状態で、真夏の電力消費ピークを迎え撃つ体制をとっている。

夜間に使われる全電力の約3%の余剰で、全ての揚水発電上池を満水にできるとの試算もある。現在のまま原発を再稼働せずに暮らしたいと願うならば、夜更かしなどせず、一億総「早寝早起き」宣言をして夜間の電力を揚水発電所に割り当てるのも、ひとつの方法かもしれない。

長野県信濃川水系の揚水発電所「南相木ダム」が、原子炉3基分の最大282万kwhに向けて拡張工事を進めている。

2011年5月の停止後、息を潜める浜岡原発建屋群
2011年5月の停止後、息を潜める浜岡原発建屋群
火を手にした事から始まるエネルギーの歴史をマルチスクリーンで上映している。
火を手にした事から始まるエネルギーの歴史をマルチスクリーンで上映している。
世界のエネルギー事情を分かりやすく展示している。
世界のエネルギー事情を分かりやすく展示している。
化石燃料に触れるコーナー。
化石燃料に触れるコーナー。
地元地権者との関わりを表す公園を併設している。
地元地権者との関わりを表す公園を併設している。