笠取山レーダー基地に降り立つ大型輸送ヘリコプター「チヌーク」

本州最大級の発電風車群「青山高原」

青山高原に51基が林立する本州最大規模の発電風車群
青山高原に51基が林立する本州最大規模の発電風車群

峠越えやトンネルを抜けて次の街へ移動する時に、対面する山の稜線に連なる白い風車を目にする事がある。エコミッションの旅を続けているうちに、ローターの直径やファームの発電規模を予想しながらホテルに到着するなりWEB検索して、それを確かめるのが密かな楽しみとなった。

いつものように山の稜線に風車群を発見。徐々に近づくうちに、ひとつ、またひとつと山陰から風車が現れ、その数を増して行く。たまらずメインルートを外れ、伊賀市と津市に股がる県道青山高原公園線で山頂を目指した。

笠取山レーダー基地に降り立つ大型輸送ヘリコプター「チヌーク」
笠取山レーダー基地に降り立つ大型輸送ヘリコプター「チヌーク」

いきなり自衛隊のヘリコプターの画像が掲載されて驚かれた方がいるかも知れないが、決して“ローター”繋がりというオチではなく、ここ青山高原一帯に風車が林立するに至ったのは、自衛隊笠取山レーダー基地の存在が大きく関与してる事をお伝えするためだ。

青山高原の三角点(標高842m)には1954年開設の米軍キャンプがあり、1960年にそれを引き継ぐかたちで自衛隊笠取山レーダー基地となった。そこへ繋がる送電線を利用することで風力発電所の建設が可能となり、1999年に青山高原ウインドファームが完成したのである。辺りを見渡すと真っ白い風車に混じって灰色のレーダー鉄塔や赤白に塗り分けられた航空標識塔が目に止まる。

ウインドファーム建設に一役買った自衛隊笠取山レーダー基地の鉄塔が見える
ウインドファーム建設に一役買った自衛隊笠取山レーダー基地の鉄塔が見える
プリウスPHVで山頂を目指すとコーナーを曲がる度に風車の数が増えて行く
プリウスPHVで山頂を目指すとコーナーを曲がる度に風車の数が増えて行く

青山高原ウインドファームは、現在のように全国各地で風車が操業するきっかけになった事にも注目したい。この一帯は「室生赤目青山国国定公園」内にある事から開発が制限されていた場所だったが、当時の県知事による異例ともいえる認可が下りて計画がスタートした。発電所を誘致したい全国の自治体は後に続けとばかりに、国内各地で国定公園への発電所建設計画をすすめる先例となったのである。

景観保全かエネルギー開発か。賛否はあると思うが、山頂付近や岬の先端など、条件の整った場所に限って国定(または国立)公園に指定され、風力のみならず、ソーラー、地熱発電などの自然エネルギー発電計画が思うように進まなかった事も事実である。

山頂付近には広い駐車場があり、風車群を見に訪れる人も多い。
山頂付近には広い駐車場があり、風車群を見に訪れる人も多い。
伊勢湾まで一望できる見晴らしの良さ。
伊勢湾まで一望できる見晴らしの良さ。

伊勢湾を一望する高原一帯には、現在までに51基もの風車が建設されている。その費用は1基当たり約2億円。直径50メートルのローターは増速ギヤなどを介せず、等速で発電機を回すという、コンパクトな設計のナセル(軸受け)が特徴だ。また各種センサーから得られた稼働状況は開発元のオランダへリアルタイムで送られ、一元管理されるというハイテクの塊だ。1基当りの最大発電量は750kWh、2015年までに合計60基、95,000kWの規模にする計画があるという。これは最新の原子力発電1基分に相当する。

増速ギヤが無く等速で発電機を回すコンパクトな設計のナセル(軸受け)
増速ギヤが無く等速で発電機を回すコンパクトな設計のナセル(軸受け)
支柱の周囲には通路があり間近で見ることができる。
支柱の周囲には通路があり間近で見ることができる。

ローターの直径が90メートルを超える巨大風車は、騒音や野鳥が飛び込んで被害に遭う“バードストライク”などの問題を抱えているが、青山高原では、騒音が少なく全方向からの風を捉えて効率よく発電できると注目されている「直線翼縦軸風車」の実証実験も行われている。

わずか十数年の歴史しか持たない風力発電は、より安全でクリーンなエネルギーを生み出す方法を模索し、より小さく微風でも回る“レンズ風車”や、いかだに乗せて洋上に浮かぶ風車など、新エネルギーの技術革新が日進月歩で進められている。この先、想像もつかないような画期的な方法が生まれ、自然にも人にもやさしいエネルギーが生まれて行く事を期待したい。

全方向の風を捉え騒音が少ないと注目される「直線翼縦軸風車」の実証実験棟
全方向の風を捉え騒音が少ないと注目される「直線翼縦軸風車」の実証実験棟

青山高原の発電発電風車群