
全国的に荒れ模様だった天候が回復し、スタートを祝福するような明るい朝を迎えた。取材で同行するRKB毎日放送の今林記者を九州新幹線小倉駅でピックアップしてハイウェイに上がると、ツートーン ピュアブルーメタリックのボディに朝日が当たり、より一層鮮やかに見える。
関門橋までの入り組んだ立体交差でも、燃料電池などの重量物を床下に配置した低重心のMIRAIの吸い付くようなコーナリングを実感、ストレートでは水素燃料電池のエネルギーが生みだすスムーズな加速を楽しみながら、青空が広がりはじめた関門橋を渡り九州をあとにした。

MIRAIは燃費走行を記憶する
MIRAIは過去に走行した路面状況や運転の違いによる燃費を記憶し、水素残量から割り出した走行可能距離をインフォメーションパネルに表示する。これを正確に読み取る事が、今回の“ささやかな冒険”を成功させるポイントのひとつだ。MIRAIに乗った当初、満充填での走行可能距離はカタログスペックとはかなり差がある385km程だったが、九州滞在中、注意深く燃費走行に徹したおかげで徐々に距離を延ばしつつある。チャレンジの最長区間は420km。山口県周南の水素ステーションに到着するまでに少しでも長い距離を表示させて“安心”を手に入れたい。


中国自動車道〜山陽自動車道を経由して山口県周南市に8月3日にオープンしたばかりの「イワタニ水素ステーション 山口周南」で最長区間前の充填をお願いした。この、四大都市圏以外で初の水素ステーションがオープンしなければ、今回のチャレンジは成立しなかっただろう。ここでも真っ赤なユニフォームでビシッと決めたスタッフが、念の入った指差し点呼の儀式の後、MIRAIをきっちり満充填してもらった。晴天と水素ステーションスタッフの声援に後押しされながら、いよいよ最長区間へのチャレンジが始まる。

山陽自動車道に戻るとすぐに山道に差し掛かる。中国山地を縫うようなコーナー、しかも上り坂が続き、見るみる水素残量が減っていくのがわかる。それでも我慢の燃費走行を続けるうちに走行可能距離が消費量を追い越していく。やがて峠をいくつか越えた先の長い下りで、満充填に換算すると400kmに手が届くところまで持って行くことができた。
届くかもしれない!

万一、途中で停まってしまった時に備えて並走してもらうローダー(陸送車)と合流するため、姫路の先、白鳥パーキングエリアに立ち寄った。駐車スペースにMIRAIを停めると、鮮やかなブルーに引きつけられるように人垣が出来る。
「これがウワサのミライですか!」「写真撮ってもイイですか!」
など、近未来の水素カーは人気の的だ。パーキングエリアでのたくさんの出会いのおかげで、燃費走行で張りつめていた気持ちがほぐれた。


これは試乗ではなく、ささやかな冒険に参加してもらう事です。
長年、環境・エネルギー問題を取材してきたRKB毎日放送の今林記者はプリウスオーナーでもあり、普段から燃費走行に心がけているという。クルマを運転する事を生業としているものとは違う一般ユーザーの視点でMIRAIを感じ、燃費をコントロール出来るのかを実践する意味でも長い距離をドライブしてもらい、チャレンジに一役かっていただく事にした。スムーズな運転と持ち前の勘の良さには舌を巻くほどで、今林記者がステアリングを離すまでに、満充填換算の走行可能距離は、ついに400kmを越えた。

“届くかも知れない”が確信に変わった頃、尼崎に降りる宝塚インターチェンジが見えてきた。数キロ先のオアシスにはタップリの水素と、IWATANIさんのスタッフが待っている。もう少しで最長区間を完走できる嬉しさと少しの寂しさを感じながら、イワタニ水素ステーション尼崎に到着した。


たくさんの偶然と幸運が“ささやかな冒険”を成功へと導いてくれた。ここから先は水素ステーションの数は増えて行くのだが、総走行距離1,200kmの半分を過ぎたばかり。気を引き締めて後半戦に望みたい。