山口から山陰道を北上していくつかの峠を越えると瀬戸内海へ注いでいた川の流れが日本海側へと逆転する“分水嶺”に差し掛かる。うっそうとした森を縫うようなワインディングを進むうち、突然パッと視界が開け、赤い瓦屋根が連なる町が現れる。“津和野”。黄色い可憐な花を咲かす「ツワブキ」が群生する「野」が語源らしいが、しっとりとして情緒に満ちた響きだ。
青野山の麓、周囲を山に囲まれた川沿いの狭い土地に、漆喰の白壁と赤い瓦屋根が特徴の歴史的建造物が数多く残り、「山陰の小京都」と称された人気の観光地でもある。町を散策してみたが、平日にも関らずツアーバスがひっきりなしに観光客を連れて来て活気がある。掘割りの澄んだ流れには鯉が群れ泳ぎ、古い町並みを人力車が行く。津和野には懐かしくも不思議な時間が流れている。
町内を流れる高津川は一級河川の中でも珍しくダムが無く、国土交通省の水質調査で「日本一の清流」のお墨付きを得ている。天然のダムとも言える深い水源森からは常に新鮮で豊かな水量が供給され、澄み切った清流を支えているのだ。
この河川流域を舞台とし、川を通して、森・里・海の繋がりを考える環境シンポジウムや、海と山をカヤック、自転車、登山の3種目でつなぐ環境スポーツイベント「高津川シー・ツゥ・サミット2010」が9月18〜19日に開催予定で全国的な注目を集めている。水源地を有する津和野町役場でもこのイベントに積極的に取り組んでおり準備を進めているという。