「人と人」との繋がりがいかに偉大か
シャッターが閉まってひっそりとする商店街が1980年代後半から増加し、身近な都市問題としても注目されている。
日本三大稲荷として有名な愛知県にある豊川稲荷にある表参道にもその問題は見られるという。しかし、われわれが訪れると、そこにはひっそりとしているどころか、活気ある商店街の姿が見られた。
かつて豊川稲荷へは年間600万人もの参拝客が訪れていたが、ここ数年前では1/3となる200万人へと激減。そこで市は大掛かりな再開発案を掲げることになる。しかし、提案は出るものの、肝心のお金が出ない。なかなか動き出さない市と住民の仲は次第に悪化し、再開発はご破算となってしまうのである。しかし、動き出さなければなにも始まらない。そこで、できることからやり始めようと住民3人と市の職員1人、たった4人での再開発が7年前に始まった。なにかやろうにもなにから始めたらいいのか? そこで、昔バンドをやっていたから、「チンドン屋」なんてどうだろうかと言って、はじめの一歩が踏み出された。
持続性がなくてはエコではない
チンドン屋は月一回のペースで行なわれ、徐々に人が集まってきた。ある程度定着してきたら、今度は町並みがあまりキレイではないという問題があがった。その頃建築家でもありハーバード大学博士の「松島 史朗」さんが、国立豊橋技術大学へ着任。「なにやら建築のことをできる偉いお人が豊川に来たらしいぞ!」という噂が町には出始めた。再開発の話を聞いた松島教授は、「実験として2年間、一年に一軒の改修を行なう社会実験をしてみよう」ということで景観整備事業がスタート。さまざまな実験をした結果、売上が伸び来客数も増加、おせんべい屋さんには行列ができるほど。現在では市から補助金が出るまでになった。
驚くことに松島さんは自身の研究室の学生を参加させ、基本的なデザインを任せている。コストや責任、市や住民との細かい調整などは松島さんがコントロールしているが、基本は学生なのである。
「学校で勉強だけするのと違って、実際にここにはお客さんがいるんですよ。学生が自信満々に提案しても、こんなんじゃダメだよ。といった具合にひっくり返されたり、社会に出てから役立つものが多い。それらもあり、経済産業省の社会人基礎力育成グランプリで審査委員会特別賞やアカデミック奨励賞などをいただきました。ある学生は建築学会の大会で優秀賞をいただいたり、すべてが学生のためにも繋がるんです」
そして、この町おこしを継続的にやる場合、一軒だけお金をかけ過ぎてもダメなのだという。あの人は1000万円もかけていいものをつくったけれど,うちはそんなに出せないしやめようかなと、そこで計画は止まってしまう。無駄に新しいものを作っても、持続可能性がなくなるとエコにはならないのだ。いまあるものを使いながら、あるレンジの中でやり続ければ20軒は改装できるだろうといった具合に、いかに継続して反映していけるかが重要なのだ。
学生も住民も市も、みんなが対等
地域コミュニティのひとつとして、ギャラリーや喫茶として利用できる施設「いっぷく亭」では、学生も住民も市も、みんなが対等に意見交換を行なっている。毎週木曜日、午後8時から10時にかけて、堅苦しいこともなしにみんなが言いたいことを言う。
「チンドン屋」から始まった町おこし。いまでは毎月第4日曜日に、住民、学生、市の職員などがチンドン屋として商店街を盛り上げている。景観整備事業もこれまでに5軒、現在も2軒の改修に取り掛かっている。昭和の雑多なニオイ、ここにはそのニオイが戻ってきている。