風が樹々を揺らす音と共に台風17号近づいてくる。夜半近くにパラパラと降りだした雨がやがて絶え間なく流れる滝のように低い唸り声をあげ、宿泊している小さなロッジが暗闇の中で孤立したように感じられる。やがて東の空が僅かに赤みを帯びてほんやり明さを取り戻すと、ちぎれた黒雲が一気に走り出し、日の出を向かえる頃には、まさに“台風一過”の眩しい青空が広がっていた。
早朝からプリウスPHVに乗り込み、釜石自動車道東和I.Cから東北自動車道へと乗り継ぎ、北へ向かった。左手には雄大な独立峰「岩手山」が朝日を浴びて輝き、右には均整の取れた円錐形の「姫神山」が美しく佇む。滝沢I.Cを下りてさらに国道281号を北上すること1時間、大坊峠を越えてようやく山間の町に到着した。岩手県の北端にある葛巻町は、人口8,000人の小さな町ながら、風力発電などでエネルギー自立を果たしている。町で暮らす人達の環境・エネルギーに対する意識も高く、ソーラーパネルや小規模水力発電などを頻繁に見かける。今も水車で粉を挽いている蕎麦屋さんがあるというので、昼食かたがた訪ねる事にした。
水車そばの店「森のそば屋」を営む髙家さんは、蕎麦の栽培、水車による製粉から製麺、蕎麦店までを全て自分の手で行なっている。自家製水車蕎麦の味と髙家さんの人柄に惹かれて遠方から足を運ぶ常連も多いという。エネルギー問題にも造詣が深い髙家さんのご自宅にも、大型のソーラーパネルが設置してあり、葛巻町が自立するクリーンエネルギーの象徴として広く知られるためになればと、地元新聞などへの寄稿もしている。
髙家さんの働きかけもあって葛巻町に根付いた環境教育の実験場「森と風のがっこう」を訪れた。沢沿いの未舗装路を10kmは遡っただろうか。山深い集落に廃校となった校舎がある。十数年空いていた建物にコツコツと手を掛け、考えうる限りのエココンシャスを実践し、手作り感を残しながらも洗練された現場の美しさに感心させられる。バイオマストイレ、屋根の緑化、小水力発電、メタンガス発生装置などの機能だけでなく、何気なく置かれているオブジェのひとつを見ても、全てに強いこだわりが感じられるのだ。
東京で生まれ育った吉成信夫さんは、敬愛する宮沢賢治の懐に飛び込むように岩手県に移住し、NPO法人いわて子ども環境研究所「森と風のがっこう」を設立した。夏休みを中心に広く全国の子ども達を受け入れ、森のフィールドにあるこの場所での合宿生活を通じて、環境やエネルギーを考えたり、人に伝える表現力を培う体験プログラムを実践しているという。オフシーズンの今は静寂に包まれているが、校庭や小川の流れる森の広場を眺めていると、子供たちが笑顔で走り回る姿が目に浮かぶようだ。現在はスタッフ8名が「森の図書館」の増設やメンテナンスに住み込みで働き、次のシーズンに備えている。
「森と風のがっこう」
葛巻町の取り組みを紹介していただいた、岩手県立大学准教授の山本先生、大変お世話になりました。
新しい取り組みなど多くを学ばせていただきました。ありがとうございます。
カテゴリー: エコミッション2012,岩手県
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