八代のホテルを出て南九州西回り自動車道という出来立てホヤホヤのルートで水俣市へ向かう。まだカーナビに登録されていないため破線が表示されるだけで道案内をしてくれない。水俣市と記されている真新しい標識を頼りに進むと予定時刻より20分も早く到着した。
水俣市へは以前、エコミッション・ジャパン(2001年)で訪れている。“環境”とか“エコロジー”という意識が芽生えたばかりの当時にあって、資源ゴミの回収システムを高度に発展させ、水俣市から回収されるゴミを「ブランドゴミ」と言わしめるまでになり、日本のみならず世界中から注目されていた。あれから10年。市民活動から始まった素晴らしい取り組みの“その後”を知りたくて再びこの地を訪れたのだ。
水俣市役所を訪問し、プリウス PHVに“電気くださ〜い!”と充電をお願いした。週末をひかえた金曜日のせいか混雑する駐車場の一角をお借りして充電を開始すると、もともと環境意識の高い土地柄、大勢の方が集まってプリウスPHV談義が始まった。他の地域では燃費や車両コストに話題が集中する所だが、環境性能に対する関心の高さに驚いた。市役所の公用車として近々PHV車両を導入し、充電設備も整える予定だという。
環境モデル都市推進課で環境問題を担当されている草野さんからお話を伺う事が出来た。ゴミ問題から始まった環境への取り組みによって、いち早く環境モデル都市宣言をした水俣市は、市民と行政が手を取り合い、常に一歩先を行く活動を目指しているという。
草野さんに水俣市の水源地のひとつ、久木野にユニークな村おこしを実践している「愛林館」という施設を紹介していただいた。久木野の谷間には美しい棚田が幾重にも連なり、その周囲を包み込むように照葉樹の森が形成されたすばらしい景観が広がる。ここでは頻繁に企画されている労働ボランティアを受け入れた棚田や森林での作業体験に、県内外から多くの人が参加している。館長の沢畑さんの人柄に惹かれ、毎回のように参加するリピーターも多いという。
愛林館をはじめ、海岸や市街地などを案内して頂いた市役所環境モデル都市推進課女性スタッフから、10年前に訪問した時にお会いした「水俣のブランドごみ生みの親」地域婦人会長の坂本ミサ子さんが、いまも精力的に活動されていると聞き、訪ねてみる事にした。突然の訪問にも関わらず、快くご自宅へ迎え入れていただき、お話を伺う事ができた。
年齢を感じさせない凛とした表情が、今日までの活動のブレない信念を物語っていると感じた。坂本さんは現在でも年に一度は海外へも出かけ、各地で講演活動などを続けているという。また、2006年には産業廃棄物最終処分場計画の白紙撤回を求める地元市民グループ「水俣の命と水を守る市民の会」の代表に立ち、水俣市人口3万人余りのうち2万1000筆の反対署名を集めて計画を撤回させるなど、今だ水俣の環境保全活動の中心で活躍されているのだ。
“夏の暑い日にグランドで汗を流して遊んだ子供たちが、水道の蛇口をひねって水を飲む。こんな当たり前の事ができんようになったらどうするね。当たり前の事が当たり前にできる水俣のためだったら、まだまだがんばりますよ。”
坂本さんが別れ際に語った一言に強く胸を打たれた。