塩竈市は1300年前から日本三景「松島」を見守る鹽竈神社の門前町として歴史を刻んで来た。丘陵地と海がせめぎあう狭い土地に密集して暮らしている人口密度の高さも特徴のひとつだ。マグロの水揚げが全国トップなのは有名な話だが、蒲鉾などの練り製品のシェア(12%)も日本一という、漁業と水産加工業の町でもある。
おでんの具として人気の「ごぼう巻」や「さつまあげ」のように油で揚げた製品もトップシェアを誇っているが、廃油の処理に頭を悩ませていた「塩釜市団地水産加工業協同組合」と行政が、2003年から新エネルギー事業、バイオディーゼル燃料生産計画をスタートさせた。
他の地域では、廃油の回収段階から解決しなければならない問題が多い中、入り江を埋め立てた貴重な平地に水産加工業の建物が整然と軒を連ね、月間4万リットルにも及ぶ同品質の廃油を供給できる環境が好条件となり、2005年に環境省の助成認可が下る。2006年、晴れて本格的なバイオディーゼル燃料生産プラントが落成し、高品質バイオディーゼル燃料の供給が始まった。(バイオディーゼル燃料=BDF)
DBF事業について話を伺うため「塩釜市団地水産加工業協同組合」を訪れた。込み入った市街地とは違い、マス目に区画整理された広大な場所に、タンクが並ぶ施設が見えて来た。事務所前に到着して挨拶もそこそこ、プラントを見学する間、“電気くださ〜い!”とプリウスPHVの充電をお願いした。ここで思わぬサプライズ!
コンテナから2人掛かりで運び出してきてくれたのは何と「ディーゼルエンジン発電機」。もちろん燃料は水産加工の廃油から精製したDBFだ。ケーブルをセットしてエンジン始動。ドドドドッという騒音はいただけないが、DBFによる発電→プリウスPHVに充電という、思いもよらないエネルギー供給のカタチに、少なからず新たな可能性を感じる事ができた。
精製プラントを行程順に見せていただいたが、高品質なDBFを生産するために、厳密な温度管理、幾度となく繰り返される撹拌と静沈、膨大な種類のフィルター濾過などなど、想像以上に手間と時間を掛けている事に驚かされた。全国的にも高品質で知られる塩竈のDBFの輝きを、単なる“まねごと”で生み出すのは難しいだろう。
「塩釜市団地水産加工業協同組合」では、BDF精製時に分離されるグリセリンのリサイクルとして、堆肥の発酵促進剤としての利用を畜産組合と共同で開発したり、魚油からBDFを精製し、船舶の燃料として使用する試みなど、次のステップに向けた挑戦を続けている。順調に採算が取れる段階まであと一歩の所まで漕ぎ着けた塩竈市のBDF事業にこれからも注目して行きたい。