あれほど寝苦しい夜が続き、猛暑だの酷暑だのと騒がれていたのが嘘のように、ひんやりとして半袖では心もとない朝だ。明け方に薄く広がっていた雲が厚みを増し、出発時刻が近づくにつれてパラパラと大粒の雨が落ちて来た。通りを行くクルマが水煙で霞む様子を眺めていると、数分間に何台ものプリウスが目の前を通り過ぎて行く。ここはプリウスPHVの生まれ故郷、トヨタ堤工場のある「クルマのまち、とよた」だ。
自然エネルギーが基本の充電システム
2009年に“環境モデル都市”に選定されたのをきっかけに、一歩先を行く環境対策に乗り出した豊田市の取り組みについて話を伺うため市庁舎へ出向くと、環境モデル都市推進課の阿久津さん、兵藤さん、交通政策課の愛知さんが笑顔で出迎えてくれた。挨拶もそこそこ、駐車場の一角にある鮮やかなグリーンが目を惹く駐車スペースへプリウスPHVを停車し、さっそく“電気くださ〜い!”。ルーフに太陽光発電パネルを備えた自然エネルギーによる充電ステーションが2機並び、すでに1機には別のプリウスPHVがプラグをさし込んで充電中だ。
あいにくの雨模様で太陽光発電は期待できないが、晴天時に発電された電気を蓄電池に蓄え、夜間にも充電できるシステムが完備されているので外部から給電の必要はない。蓄電池の容量も大きく、1基で2台のプリウスPHVを満タン可能だ。さらに市庁舎駐車場には同じシステムの充電ステーションが6基連なる場所もあり、市が保有している20台のプリウスPHVが次々と出入りしている光景に、数年先の日常を垣間見たような気がした。
ここを含め、市内には11カ所21基の充電ステーションを整備しているという。狭い範囲にこれほどの充電施設を備えている所は見当たらず、さすがは「クルマのまち」を名乗るだけの事はあると感心するばかりだ。ひと通り充電システムの説明を聞いてからエコミッション@2010プリウスPHVにプラグを“カチッ”。空っぽの車載リチウムイオン電池が満タンになるまでの間、市庁舎内へ案内された。
「環境モデル都市 とよた」が目指す次世代とは
市庁舎に入ると、美しい曲線基調の吹き抜けに掛かるエスカレータを上り、広い会議室へと案内された。楕円形の大きなテーブルを囲んで前述の担当者とチームACPメンバー、取材に来た中部経済新聞、中日新聞、読売新聞、毎日新聞の記者が同席し、「ハイブリッドシティとよた」の環境への取り組みについてお話を伺った。
知っての通り豊田市は世界有数の自動車産業都市だ。これまでは当たり前のように、市民の7割が交通手段を自動車に依存しており、渋滞や騒音、大気汚染などの原因となっていた。そこで、持続可能な交通モデル都市実現に向けて、基幹バスの低公害車化、エコドライブの推進、自転車道の整備など本格的な取り組みが始まっている。工場が立ち並ぶイメージが強い豊田市だが意外にも約7割が森林地帯。全国的な国産木材需要の低下や労働力の老齢化などで荒廃する放置森林を再生させようと「豊田市100年の森づくり」構想がスタート、間伐手遅れ林を一掃し、木材の安定供給を目指している、などなど。散乱する膨大な量のパズルを、ひとつひとつ組み立てるような地道な活動が官民一体となって続けられている。
日本が世界に誇る自動車産業の町である豊田市が懸命に取り組んでいる活動は「人と自然とクルマとの共生」のひとつの指針となる事は間違えないだろう。世界の環境問題を牽引する立役者として、どの都市よりも一歩先を進んでもらいたいと願うばかりだ。