次世代の自動車運搬船

分厚い鉄板がぶつかり合うような重低音が響き渡り、大声で叫んでも自分の声すら聞き取りにくい。“ピピィ、ピ”と小気味良いホイッスルに合わせて、“ギャング”と呼ばれる男達が動き出すと、ピカピカのクルマがスロープを駆け上がり、所定の位置にピタリと停車する。間隔はわずか拳一個ほどで通称“ワンナックル”。ドアが開いてドライバーが降りると間髪入れず次のクルマが滑り込み、あっと言う間に貨物デッキが埋められて行く。

ものすごいスピードで続々と運び込まれるクルマ

ものすごいスピードで続々と運び込まれるクルマ

ここはトヨフジ海運の“TRANS FUTURE 8”という自動車運搬船の貨物デッキ。昨年オーストラリア大陸一周「エコキャンプ@オーストラリア2009」で発売間もない30型プリウスを運ぶ手配をお願いしたトヨフジ海運の駒田社長のご厚意で、名古屋港でクルマを搬入中の自動車運搬船内を見学できるという、またとない機会をいただいた。

“TRANS FUTURE 8”は今年5月に進水式を終えたばかりの真新しい自動車運搬船で、一度に2,000台のクルマを運ぶことが出来る。同社が運航しているなかには6,000台を運べる船もあるので、比較的小型と言えるかもしれないが、それでも全長165mの存在感はすごい。何よりこの船は次世代を見据えた環境対策が施されているというので、磯貝専務、水野環境部長、櫻井設計担当に話を伺った。

ここ数年、「バラスト水」による港湾環境への影響が問題となっている。バラスト水とは、空荷の船舶が安定を確保するために汲み上げて積載する海水のことで、全世界で年間100億トン以上の海水が移動しているという。バラスト水は荷物を積込む港へ入ると積載浮力を得るために排出される。そこで問題になるのが、遠隔地から運ばれたバラスト水に含まれる多量の微生物や稚貝、甲殻類の幼生等が排出されることで、生態系に与える影響だ。特に貝類単独種の異常繁殖による被害は甚大で、港湾全体が同種の二枚貝で埋め尽くされたという報告もある。

トヨフジ海運の“TRANS FUTURE 8”は日本の船として初めてバラスト水に含まれるの微生物等を、光触媒による有機反応により効果的に死滅させる処理装置を搭載。各国の港周辺生態系の保護を呼びかけるバラスト水条約への対応をいち早く進めている。また、座礁などにより船底を損傷しても燃料タンクを保護し、油流出による海洋汚染を防ぐために3重底タンクを使用したり、排煙に含まれるタールやピッチを除去するフィルターを装備するなど、次世代の運搬船をリードする存在として注目されている。

BIO DIESELで挑むダカールラリー

ダカールラリー(通称パリダカ)と言えば、F1と並び、モータースポーツファンならずとも注目を浴び続ける大舞台だが、チームACPメンバーで「エコミッション1999@北米」から活躍してきた“寺ちゃん”こと寺田昌弘選手が、トヨタ車体「チームランドクルーザー(TLC)」のドライバーとして、そのダカールラリーにエントリーすることになった。トヨタ車体本社のある刈谷とは目と鼻の先にあるホテルに滞在している我々は、激励を兼ねて表敬訪問する事にした。

トヨタ車体ダカールラリーのチームスタッフ

トヨタ車体ダカールラリーのチームスタッフ

トヨタ車体本社へ到着すると、ブルーのツナギ姿の寺ちゃんが笑顔で手を振って迎えてくれた。案内されるままシルバーに輝く社屋の角を曲がると、2011年のラリーマシン2台がど〜んと鎮座している。逞しい車体は赤白基調にペイントされ、ボンネットには「BIO DIESEL」とグリーンのロゴが施してある。基本理念に『環境との調和』を掲げるトヨタ車体がダカールラリーに使用する2台のランドクルーザーは、社員や地域の方々の家庭、社員食堂から回収された使用済みのてんぷら油を精製した「バイオディーゼル燃料(BDF)」だけで走行し、過酷なラリーに挑戦しようというのだ。

社内数カ所に設けられた「てんぷら油(廃食油)回収ボックス」には、トヨタ車体社員の家庭から出される廃天ぷら油がペットボトルなどに入って集められていたが、これを含め、現在までに5,000リットルあまりが回収されたという。目標としている7,000リットルまでもう一息だ。集められた廃油は、豊田通商さんに託されたあと、徹底的に不純物が取り除かれ、高度な精製行程を経て、晴れて「バイオディーゼル燃料(BDF)」へと生まれ変わる。昨年までのエントリーでも軽油に20%を混合して使用してきたが、技術革新の恩恵を受け、2011年には2台のマシンが100%「バイオディーゼル燃料(BDF)」での参戦を果たす事になる。

マシンを調整中のガレージで“電気くださ〜い!”とばかりに充電をお願いする。運良くチームメカニックも同席していたので、プリウスPHVのタイヤ交換をお願いすると、本場仕込みのスピードたるや、あっという間に作業が終了。普段、ヘビー級のタイヤを扱い慣れているスタッフにとっては、プラモデルを組み立てるような感覚なのかも知れない。

ランドクルーザーといえば、キャンプなどアウトドアに出かけるSUVとしてのイメージが強いが、世界を旅するとそれは真に“働くクルマ”だと実感する。砂漠や泥水に埋もれた不整地をもろともせず、人や物資を運ぶ逞しいトランスポーターとして、絶対の信頼を得ている数少ない存在だ。それはラリー参戦などで得られたノウハウをクルマ作りに反映させてきた成果でもある。今回の「バイオディーゼル燃料(BDF)」100%使用で得られる情報が、世界で活躍するクルマ達にフィードバックされる日も遠くないだろう。環境メッセージを込めて挑戦するダカールラリーに向けて、頑張れTLC!
(DAKAR RALLY 2011/Argentina-Chile 2011.1.1-1.16)



トヨタ車体 チームランドクルーザー(TLC)

トヨタカローラ愛豊 豊田店訪問

陽気な女性スタッフさん“電気くださ〜い!”

陽気な女性スタッフさん“電気くださ〜い!”

宿泊先の三河安城から豊田南バイパスを北上すると、道路の両側が三角屋根で埋め尽くされる場所がある。プリウスPHVが生まれたトヨタ堤工場だ。広大な敷地を走っていると、プリウスのサインボードが見送ってくれる。程なくして街道沿いにオレンジ色が目にも眩しい「トヨタカローラ愛豊 豊田店」が見えてきた。早めの到着だったが、すでに迎える準備をしていたスタッフの方から「洗車機がありますから洗車しましょう」とありがたいお言葉。リフレッシュして展示スペースへ搬入し準備が整った。

愛知県内にある他のトヨタディーラー同様、本当に広々として開放感があるのはもちろんだが、全面フローリングの店舗は初めて。暖かみのあるやさしい雰囲気に包まれ、ファミリー層に共感を呼ぶ事は容易に想像がつく。早速“電気くださ〜!”と充電させていただきながら、営業スタッフや来店客とプリウスPHV談義に花を咲かせる。先日発表になった「疑似エンジン音発生装置」についての話題では賛否両論あったが、充電が満タンになり試乗してもらった感想を伺うと「EVモードは予想より力強く、静か。」との事。音も無くスルスルと走り出すプリウスPHVはやはり先進的な魅力に満ちていて“静かさ”が魅力のひとつなのは間違いないだろう。少し汗ばむような陽気だが、店舗裏の田んぼの稲穂がこうべを垂れ収穫間近の様子で心地よい風が吹くと、ことさらに秋を感じるゆったりとした1日だった。