別府湾に突き出すように構える急斜面が高崎山だ。標高628mの巨大なおむすびは、対岸の大分空港からでもはっきりと認識できる。古くからニホンザルの棲息地として知られ、かつては農作物を荒らす「にっくき猿」として度々衝突を繰り返して来たが、高崎山自然動物園が餌付けや柵の設置、周辺パトロールなど地道な防衛・保護活動を続けたおかげで、今では観光の目玉として大きな役割を果たしている。
ニホンザルの群れは由布岳、鶴見岳等が連なる火山群の南東端にあたる高崎山を基点に一帯を移動しながら生息していたが、1989年に運用が始まった大分自動車道が群れの行き来を分断してしまった。そこで、すこしでも容易に移動できるようにと、「猿の高速道路横断橋」が設置されたのである。
2001年のエコミッション・ジャパンで訪れ、群れの行き来を期待しているという話を伺っていたが、“あれから10年、橋はどうなっているだろう?”という思いでここを再訪したのだ。
財団法人大分市高崎山管理公社スタッフの江川さんにお話を伺う事ができた。「猿たちがあの橋を利用したという報告は今までに僅かに1件だけです。何本か掛かっている別の車用橋では多くの群れを確認していますが。」自然が相手の事、なかなか人間の思惑通りには行かないようだ。
群れの編成も10年前とは大きく変わり、α雄(アルファオス:ボスザルという呼び名は現在は使わない)の「ゾロ」は在任期間が11年7カ月と歴代1位。高崎山にいる群れのうち、最も大きいC群のリーダーで696匹を率いている。10年前に訪れた時には最大だったA群はC群の台頭と共に自然消滅してしまったという。何とも寂しい話だが、願わくば「猿の高速道路横断橋」を渡って内陸部へ逃れたと信じたい。