玄界灘に面した弓なりの海岸線は樹齢200年を超える黒松林に覆われ、見事な白砂青松(はくしゃせいしょう)の風景が広がる。今にも降り出しそうな曇天だが、いかにも日本の海岸らしい風景に心癒されながら鐘崎漁港を目指した。
名勝「さつき松原」は、400年前に筑前国初代藩主として着任した黒田長政が植林を始めたといわれ、防風・防砂林として人々のくらしに貢献してきた。この景観を守るために市民ボランティアによる清掃活動や、黒松の健康調査などが定期的に行われ、さつき松原を身近に感じられるように散策路も整備されるなど、手厚い保護の元、130ヘクタールを超える広大な黒松林の美しい景観を保ち続けている。
玄界灘と関門海峡側の響灘を分けるように突き出す「鐘の岬」にある鐘崎漁港は、漁船の数、漁獲量ともに九州一を誇り、その品質には定評がある。トラフグやヤリイカ、アジなどの沢山の魚介類が揚げられ、ここで穫れたフグは下関産として唐戸市場に出荷されている。活け締めに対する強いこだわりを持っており、神経抜きなど、鮮度を保つさまざまな工夫が施され、鐘崎の魚には、“鐘崎漁師”のプライドが満ちているようだ。
子供の頃、黄色いクルマに3台遭ったら幸せになれるとか、そういう都市伝説めいたものが流行った事があったが、都会でもめったにお目に掛からない「ピンククラウン」に、福岡県の西の外れの鐘崎漁港で遭遇した。何かラッキーな予兆と勝手に判断してしまう。
今日の宿泊先は宗像の旨い魚料理が自慢の、割烹民宿「松風荘」さん。素朴で温かい人柄を滲ませるご主人と、明るくフレンドリーな女将さんが出迎えてくれた。生憎の雨模様だが、こんな日は民宿でのんびりと過ごすのが得策、宿自慢の岩風呂でさっぱりした後、畳の上にゴロリと横になった。
程なくして夕食の時間。ご主人が“今日は良いアジを手に入れましたよ”と言っていたので楽しみにしていたが、出て来たのは予想を上回る見事なアジのお造り。きらきら輝く薄ピンクの身は引き締まっていながら脂が乗っていて本当に旨い!もちろん刺身ばかりでは無い。屋号に“割烹”と掲げるに相応しく、手の込んだ和食がテーブルいっぱいに広げられる。
料理を目当てに訪れる客の多くは、晩秋から真冬に掛けて格安で提供している“ふぐ”を食べに来るリピーターだというが、機会があればベストシーズンに再訪したい“いち押し”の宿である。