農業用水を活用した小水力発電

大分の自然を活かしたエネルギー開発「エネフォレスト」

九重町に掘削している地熱発電所
九重町に掘削している地熱発電所

大分市郊外にあるエネフォレストに到着すると、専務の木原さんをはじめとするスタッフのみなさんが笑顔で出迎えてくれた。ベンチャー企業らしいスモールオフィスに通されると、ピンと張りつめた雰囲気が心地よく、自然エネルギーのパワーで社会を変えようとする、ただならぬ情熱を感じる。

エントランスには試験運用された小水力発電機が展示されている。
エントランスには試験運用された小水力発電機が展示されている。

大分県では2012年、産学官が連携して「大分県エネルギー産業企業会」が設立された。県から地元企業や市町村による再生可能エネルギーを利用する発電設備の導入費に助成し、普及と関連産業の振興を図っているという。エネルギー関連分野から特定のテーマを決め、地元企業や大学が連携したワーキンググループを組織し、技術や製品の研究開発を共同で行い、その費用の一部を助成している。このワーキンググループの一つで、小水力発電に取り組んでいるエネフォレスト株式会社を訪ねた。

小電力発電の施工事例などをプレゼンしていただいた。
小電力発電の施工事例などをプレゼンしていただいた。

これまでの実績と業務の概要を、プロジェクターを使って解説していただいた。さまざまな形状がある水力発電の水車の中で、エネフォレストの実績の中心は、農業用水路などで落差が小さい場所にも設置可能なクロスフロー水車とプロペラ水車だ。

前後のプロペラが逆回転する「二重反転式プロペラ」。繊細な形状からは想像出来ない程の高出力を生む。
前後のプロペラが逆回転する「二重反転式プロペラ」。繊細な形状からは想像出来ない程の高出力を生む。
水中でも使えるという開発中の水車。資料提供:エネフォレスト株式会社
水中でも使えるという開発中の水車。資料提供:エネフォレスト株式会社
「二重反転式プロペラ」は少ない水量でも安定した発電が可能だという。資料提供:エネフォレスト株式会社
「二重反転式プロペラ」は少ない水量でも安定した発電が可能だという。資料提供:エネフォレスト株式会社

大分県は由布岳や久住山に代表される急峻な山間地が多く、一年を通してかなりの降水量もある。小水力発電にはうってつけ条件が揃っているが、地域の理解が得られなければ発電施設の建設にこぎ着く事はできない。

そこで、エネフォレストでは発電した電力をできるだけその地域で活用することを提案し、地域との共生を目指しているという。例えば地域の公民館の照明や冷暖房、ビニールハウスなどの農業施設へ送電することで、単なる発電を超えた地域活性化ツールとして社会に浸透させたいとの願い、言わば、“エネルギーの地産地消”を実践しようという取り組みである。

小水力発電所を併設している「フィッシングパーク山セミ」に到着。
小水力発電所を併設している「フィッシングパーク山セミ」に到着。

大分市街の目抜き通りを西へ10kmも行くと、次第に道幅は狭く坂は急になり、やがて渓谷を沿うように蛇行する山道に変わる。美しい流れと森の緑を楽しみながら小さな石橋を渡った先に、小水力発電施設が見えてきた。沢から流れる水量は想像以上に豊富で、ゴゥゴゥという音を響かせながら発電ユニットに吸込まれて行く。

プリウスPHVに小水力発電所の電気を充電していただきながら、オーナーの安部さんに話を伺った。

「以前からこの水路に発電施設を作りたいという申し出が何件かあったんですが、全部断っていたんです。しかし、エネフォレストの木原さんと会った時、彼の若さとエネルギーに対する考えを聞いて、任せてみようという直感が働いたんです。それでお願いしました。」

別れ際に安部さんから告げられた一言が深く印象に残る。

「これからのエネルギーは若い君たちに任せた!」

オーナーの安部さんに小水力発電所の電気を充電していただいた。
オーナーの安部さんに小水力発電所の電気を充電していただいた。
小水力発電ユニット(最大出力19kw)
小水力発電ユニット(最大出力19kw)
小水力発電所全景
小水力発電所全景

さらに山道を登ると、辺りには硫黄の香りが漂い、もうもうとした湯気が立ち上る。先導している木原さんのクルマが狭い林道へと分け入っていく。鬱蒼うっそう)とした森の小道をしばらく進んだ先にあったのは、地獄絵図に出てくるような泥池だ。地下のマグマによって熱せられた膨大なエネルギーが地表へと噴き出し、灰白色の泥が沸いていた。

地熱発電の現場は深い山中にある。
地熱発電の現場は深い山中にある。
地中から沸き上がる熱泥の池は、まさに地獄のようだ。
地中から沸き上がる熱泥の池は、まさに地獄のようだ。
“地獄の池”で地熱発電について木原さんに話を伺った。
“地獄の池”で地熱発電について木原さんに話を伺った。

「地獄の池」から数分の場所に、エネフォレストの手掛ける地熱発電所の掘削現場がある。

地熱発電とは、地下深くまで掘り下げた「生産井せいさんせい」から高温の地熱流体を取り出して水を分離し、バイナリ発電機へ送ってタービンを回して発電、使用済みの水蒸気を冷却して水に戻し「還元井かんげんせい」で再び地下水脈へ戻すという一連の工程を、地下から吹き上げる圧力だけで稼働させる高効率な発電方法だ。

高くそびえる生産井せいさんせいを見上げながら木原さんは言う。

「1,500mまでの掘削許可を申請しましたが現在は750mまでの許可になっています。地下深くまで掘削してより安定した高温の地熱流体を取り出せるように、お願いしています。地元の皆さんの協力は頂いておりますので、行政の迅速な対応を期待しています。」

地熱発電の掘削現場。手前が生産井、奥が還元井。
地熱発電の掘削現場。手前が生産井、奥が還元井。
行政をはじめ地域との共生が今後の課題だと語る木原さん。
行政をはじめ地域との共生が今後の課題だと語る木原さん。
生産井のバルブを回せば地中のエネルギーが噴き出す。
生産井のバルブを回せば地中のエネルギーが噴き出す。
さまざまな形状の掘削棒が並ぶ。
さまざまな形状の掘削棒が並ぶ。

「やまなみハイウェイ」を走った先にある、もうひとつの現場を案内していただいた。さすがに日本有数のワインディングロードとして知られるだけの事はある。長者原の直線道路では正面にくじゅう(硫黄山)の噴火口を望む素晴らしい景色の中、プリウスPHVが滑るように駆ける。気温は20度。窓を開けると高原のひんやりとした空気が車内を満たした。

高原の景色を存分に楽しんだ後、長い坂を下りはじめるとプリウスPHVは発電を開始した。麓近くの目的地へ到着するまでの約20分でリチウムイオンバッテリーは80%も回復していた。30系プリウスでは直ぐにバッテリーが満タンになり捨てるしか無かった電気だが、プリウスPHVの大容量バッテリーは約3.5倍。より多くの電気を蓄えて高燃費を実現できるのだ。

「やまなみハイウェイ」長者原付近。正面にくじゅう(硫黄山)の噴火口を望む直線道路。
「やまなみハイウェイ」長者原付近。正面にくじゅう(硫黄山)の噴火口を望む直線道路。
道の駅 竹田にある防火兼農業用水を活用した小水力発電施設。(最大出力25kw)
道の駅 竹田にある防火兼農業用水を活用した小水力発電施設。(最大出力25kw)

「道の駅 竹田」には、防火兼農業用水路を活用した小水力発電施設が設置されている。豊富な水量と、短距離ながら工夫された勾配のおかげで、最大出力は25kwにもなる。ここで発電された電気は、直ぐ側にあるイチゴ栽培のビニールハウスに送られ、暖房などに利用されている。まさにエネルギーの地産地消だ。

イチゴ栽培のビニールハウスの暖房などに使われている。
イチゴ栽培のビニールハウスの暖房などに使われている。

大分市郊外のオフィスに戻り、木原さん、スタッフみなさんにプリウスPHVの“底力”を見てもらった。

リチウムイオンバッテリーに蓄えられた電気をヴィークルパワーコネクター(VPC)で取り出し、電化製品が使えるプリウスPHVに大いに興味を持っていただいた。木原さんが小水力発電施設の電気で走る日は近いかもしれない。

現在は小水力発電と地熱発電に取り組んでいるエネフォレストだが、いずれ水素も含めた複合的なエネルギーを生産するメーカーに発展させて行きたいという。夢に向かって突き進む大分のエネルギーベンチャーの今後に注目したい。

プリウスPHVにヴィークルパワーコネクターを装着し、木原さんにLED照明を点けていただいた。
プリウスPHVにヴィークルパワーコネクターを装着し、木原さんにLED照明を点けていただいた。
丁寧に解説してくれた工事部長の末廣さん。
丁寧に解説してくれた工事部長の末廣さん。

エネルギーに情熱を傾ける「エネフォレスト」


小水力発電施設 空撮

木原さん、末廣さん、新入社員さん、スタッフの皆さん
お忙しい中、見学させていただきありがとうございました。
これからのエネフォレストに期待しています。