東北



10月 18日 2011

津軽海峡の航路を導く尻屋崎灯台

津軽海峡の航路を導く尻屋崎灯台

むつの町を抜けてなだらかな丘陵地を駆け上がると、市街地の先には男性的な輪郭が特徴的な燧岳(ひうちだけ)が勇壮な姿を現し、周囲は見事に手入れの行き届いた銘木「青森ヒバ」の森林が広がっている。最後の丘を越えて視界が開けると、正面には吹き荒れる強風に白く泡立つ津軽海峡が見えてきた。重い鉛色の雲が立ち込め、時折小雨も混じる悪天候だが、無彩色の背景がいかにも最果ての地にふさわしい絶景に重厚な風格を与え、先端の尻屋崎に到着するまでの間、カーブを曲がるたびに表情を変える大パノラマに、何度となく“すごい!”と声を上げながらの感動ドライブを味わう事ができた。

高い波と“サラシ”で真っ白に泡立つ海岸

高い波と“サラシ”で真っ白に泡立つ海岸

昨日乗船した函館からのフェリーが大間港に着いた時にはすでに陽が落ち、街灯の少ない真っ暗闇のルートをひた走ってホテルに到着したのは午後8時。夕食を食べに繁華街へ出掛けたものの、開いているのは居酒屋ばかりで途方に暮れていると、のれんを下ろしかけていた一軒の中華料理屋が目に止まり、慌てて声を掛けて店に飛び込んだ。食事が済んで店主と雑談している中で、尻屋崎に寒立馬を見に行く話を持ち出すと、知人が寒立馬を管理している牧野組合の組合長だと聞かされた。是非お会いしたいとの申し出に快く応じて先方へ電話まで掛けてくれた。全くもって縁とは不思議で、なんと奥深いものだろうか。

尻屋崎にある東通村に到着して、むつ市の中華料理店「五十番」の店主に紹介された、尻屋牧野組合長の寺道さんを訪ねてお宅を探していると、一台の軽トラックが追い抜いて停車し、がっしりとした体格の男性が降りて近づいてくる。もしやと思って尋ねると、やはり寒立馬の寺道さんだ。ちょうど本業の昆布漁から戻る途中で、運良く出くわして声を掛けてくれたのだった。昆布の加工場がすぐ側にあるというので中を見せてもらうと、温風を送り込んで乾燥させるための部屋には磯の香りが立ち込め、大量の昆布が天井から下がって出荷を控えている。キレイに切り揃えられた乾燥昆布が積み上げられているのを見ていると、おもむろにビニール袋を取り出し、鷲掴みで昆布をつめこんで“ほれ、持ってげ”と無造作に差し出した。最果ての牧野で寒立馬を育てている寺道さんは、朴訥とした男臭い魅力的な方だった。

昆布の乾燥場で作業する寺道さん

昆布の乾燥場で作業する寺道さん

寺道さんの話では、寒さに耐える持久力と野に放っても自分で食べ物を見つける賢さから、馬屋を必要とせず、長いあいだ野生馬のような状態で飼われて来たが、時代の移り変わりと共に平成7年には9頭までその数を減らし、飼育を止めようと思っていた時に、貴重な寒立馬を守ろうという保護政策がはじまった。現在は40頭ほどに数を増やしているが、この牧野の広さではこれが精一杯でこれ以上増やすつもりはないという。地元では「野放し馬」と呼び、特定の名前は無かったが、尻屋小中学校の校長の岩佐勉先生が詠んだ短歌が由来となって寒立馬と呼ばれるようになった。

東雲に勇みいななく寒立馬 筑紫ヶ原の嵐ものかな

「かんだち」という言葉はカモシカが厳冬のなか、何日もじっとたたずむ姿を地元のマタギの間では「カモシカの寒立」と呼び、校長先生は、野放し馬にも同じような姿を見ることができることから「寒立馬」と命名したと語っている。

珍しい授乳の様子が見られた

珍しい授乳の様子が見られた

尻屋崎周辺は誰でも散策できるが寒立馬が遠くへ行かないよう手前にゲートがあり、日中のみ一般に開放されている。絶景の中で風雪にじっと耐える健気な姿が人気で、観光客も増加しているが、寺道さんの話では、馬を良く知らない方が犬を連れて来て、馬も犬も双方が驚いて暴れるのに巻き込まれて、怪我をするケースが増えているというので注意して欲しいとの事だ。

寺道さんの寒立馬を見に来る時の注意ムービー(下北弁)

尻屋崎には通年強風が吹きつける事から、日本で初めて本格的な風力発電所「岩屋ウインドファーム」が建設された事でも知られている。東通村から山道を登ると、津軽海峡をバックに林立するたくさんの風車が一斉に回る、壮大な風景を目にすることができる。岩屋ウインドファームでは25基の風車で一般家庭3万戸分の電力消費量に相当する最大32,500kwの電気を発電しているが、そのほとんどは尻屋崎で消費される事無く、巨大な変電施設で整流された後、大掛かりな送電線で都市部へと送られて行く。

東京から訪ねた我々の体感温度は真冬以下と、顔がこわばるほどの寒さを体験したが、寒風に絶える寒立馬と、それを活用する風力発電という不思議な取り合わせが、津軽海峡を望む絶景に繰り広げるシーンの数々を目に焼付けながら、尻屋崎を後にした。

ドライブムービー(むつ市〜尻屋崎灯台〜岩屋ウインドファーム)

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10月 17日 2011

函館フェリーターミナルに掲げられた震災応援メッセージ

函館フェリーターミナルに掲げられた震災応援メッセージ

気まぐれな天気の急変に悩まされはしたものの、紅葉が深まり行く秋を存分に味わった北海道を離れる日が来た。沖縄をスタートして3ヶ月間余り、日本各地で寄せていただいた被災地への温かい応援メッセージは、北の大地でもたくさんの方々の想いを詰め込んで、さらに重みを増すことが出来た。北海道各地の街頭でも東北を応援するメッセージが掲げられていたが、函館から津軽海峡を渡るフェリーターミナルに着いて最初に目にした「かんばれ東北!」の真っ赤な巨大横断幕には本当に胸を打たれた。悲しい災害に遭ってしまった東北を思って、日本中が力一杯応援しているのを実感している。

世界ジオパークの有珠山。右の小さい尾根が昭和新山

世界ジオパークの有珠山。右の小さい尾根が昭和新山

函館までは距離では短いニセコ方面の北ルートで無く、高速道路がどんどん伸びている苫小牧・長万部を通る300キロ強の南ルートをチョイスした。札幌を出て、一路南下 千歳を抜け苫小牧へ。千歳付近では日本の北の国境を守る自衛隊所有の戦車が一般道路をぬけていく姿を見ることが出来た。苫小牧からは西へ日本初の世界ジオパークに認定されている洞爺湖・有珠山の横を通り、フェリー乗り場へと向かった。

内浦湾、別名、噴火湾に浮かぶ美しい虹

内浦湾、別名、噴火湾に浮かぶ美しい虹

途中、天気の移り変わりを象徴するように、ほんの少しの晴れ間の中、噴火湾にぽっかりと虹が、僕らに北海道との別れを告げているように現れた。道央道の現在の西の終着点落部ICでおり、噴火湾の名前の元になった2つの山頂を持つ駒ケ岳を正面に見ながら最後の70キロを函館へと向かった。走ってきた快適な新しい高速道路は気持ちの良い走りを楽しめるルートは、予定より早く目的地にたどり着くことが出来た。フェリーの出発までの時間を乗り場から10分程度の所にある五稜郭を訪ねてみた。

整備の行き届いた美しい五稜郭

整備の行き届いた美しい五稜郭

五稜郭を一望できる新五稜郭タワーのおかげか、平日にもかかわらず多くの観光客が訪れていた。青函連絡船は青函トンネルの開通により廃止されたが、津軽海峡フェリーが函館と本州との間の航路を守っている。函館からの船旅は、事前予約と支払を済ませてQRコードを印刷した用紙をかざすだけで済むスマートチェックイン方式を採用していて、従来の面倒な乗船名簿書きや車検書を持ってわざわざカウンターに行く必要が無くとっても楽。同乗者も一緒に車でフェリーに乗れ、これは楽です。インド神話のヴァーユ(風の神)から名づけられた、ちょっと小型1500トンクラスのフェリー「ばあゆ」へ乗り込んだ。

港の防波堤を波が越えてしまう、荒れ狂った強い風が吹き津軽海峡の荒波を、90分の船酔い船旅を心してフェリーに乗り込んだが、その神様のおかげか、さほど激しい揺れを感じず津軽海峡を渡ることが出来た。本州最北端の町大間に無事到着、そのまま小雨の中、明日からの最終ステージ東北編の思い描きながらむつ市の宿舎にむかった。


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10月 7日 2011

土砂降りの雨の中、大洗港へ

土砂降りの雨の中、大洗港へ

北海道まで、陸路を青森まで走るか、カーフェリーで海路を行くか悩んだが、体力を温存するため車ごとフェリーで北海道に行くことにした。

残念ながら、首都圏から北海道行きのカーフェリーは茨木県大洗港まで行かないと乗船できない。朝から怪しげな空模様だったが、昼すぎに新横浜を出発して、湾岸線に入った頃から土砂降りになった。せわしなく動くワイパーの隙間から高層ビルが霞んで見える。そのうち小降りになるだろうと期待していたが、大洗港まで140km常磐道を雨とランデブー走行になってしまった。18:30発の「さんふらわあさっぽろ」13,654トンの巨体にPHVとプリウスを積み込んで一安心。あとは寝ていれば苫小牧まで連れて行ってくれる。この「さんふらわあさっぽろ」は、旅客632名と乗用車100台に、なんとトラック180台を飲み込んで航海速力24ノットで航行する。1ノット=1,852mだから時速約45kmで大海原を進む。あれこれ海上のルールや天候にも左右されるが、20時間ほどで苫小牧へ到着する。

気になるカーフェリーの料金だが、5m以内のプリウス1台とドライバー1名で26,000円。プラチナ割引(60歳以上)とJAF会員割引を適用すると10%レスで23,400円。かなりお得感がある。常磐道、道央高速の通行料5,000円を加えても3万円弱、乗車人数にもよるがカーフェリーがお勧めだ。勿論、エコノミークラスと呼ばれる枕と毛布が45人分並ぶ大部屋だが、シーズンオフはガラガラだからパソコン用のコンセントがある場所を確保できれば、外洋に出る前にLANを接続してメールや必要な情報を取り込んでおくと楽だ。太平洋に出ると携帯やネットは繋がらない。あ、船に弱い方は乗船前に船酔い薬を飲んだほうがいい。

一方、陸路を試算してみた。いずれも乗用車1台を一人で運転した場合です。

東京~青森間は800km弱。高速代が13,500円+津軽海峡をカーフェリーで渡って18,600円也。函館から目的地札幌までは306km(東京名古屋間に匹敵する)、高速代5,300円を加えると37,400円也。燃料費を加味してトータルをザックリ計算すると4万5千円が消え、疲労が溜まる。陸路を走るなら運転できる同乗者が多いほどお得で疲れがない。それに速い。カーフェリー利用では、ドライバーが高齢者で同乗者が少ないほうがお得感があることが分かった。

あれこれ計算しているうちに睡魔に襲われ、久し振りに10時間べったり眠ったら「さんふらわあさっぽろ」は、下北半島を後にしていた。

「さんふらわあさっぽろ」と乗船を待つPHV

「さんふらわあさっぽろ」と乗船を待つPHV

 


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