4月 19日 2011

鍛える道具の美

鍛える道具の美

島原城築城で集められた職人が起源とされる鍛冶屋の中でも、全国的にもめずらしい日本古来の「たたら製鉄法」で鉄を一から作っているという「吉光」さんを訪ねた。築70年の木造工房は梁と屋根で支える柱の少ない構造で、長い年月を掛けて染み付いた熱と鉄粉を身にまとい、中央に据えられゴウゴウと燃えるタタラ製鉄の釜の鼓動に共鳴する、ひとつの生き物のような存在感がある。

有明海沿岸で採取した砂鉄を松炭をくべた釜で溶かし、藁灰をまぶしながら鍛錬する独特のたたら製鉄法で作られる希少な「玉鋼」は、日本刀にも使用され、作られた刃物は鋭い切れ味を誇る。砂鉄100kgを製鉄して採れるのは僅かに4kgほどと、まさに玉のように貴重な塊。吉光ではこの「玉鋼」を贅沢に使った、こだわりの包丁や農具などの刃物を作っている。

数年前、鉄製の空き缶を釜で溶かして包丁が作れないかと思い立った。塗装を焼き剥がして細かく刻み、温度管理に細心の注意を払うなど試行錯誤の末、ようやく鋼の精錬に漕ぎ着け「エコ包丁」を誕生させたという。実際に空き缶を釜で溶かす作業を見せていただいたが、少しずつ釜にいれて溶かしては鎚で打つ事を幾度となく繰り返す手間の掛かりようで、大量にあった空き缶40個から、やっと一丁の包丁が生まれる。

ここ「吉光」で鎚を振るうのは「吉田5兄弟」。90歳で現役という“次男 則行さん”を筆頭に、“五男 鍛さん““六男 錬治さん”“七男 研治さん”“九男 輝起さん”と、鍛冶にちなんだ名前が並び、5人の合計年齢は380歳を越えるというから驚きだ。

プライドと自信に満ちた鍛冶職人達

プライドと自信に満ちた鍛冶職人達

昔から炭を多用する鍛冶職人達は、森林資源を有効に活用する工夫を続けてきた。吉光さんでも廃材を使って自分で炭焼きをしたり、廃油を燃料として使える釜を作ったりと、環境保全が身に付いているのには関心させられた。伝統を継承しながらも、新しいものづくりに挑戦し続ける「吉光」吉田さん兄弟の心意気に、たくさんの元気をいただいた。末永く本物の刃物を作り続けていただきいと願いながら工房を後にした。
吉光の皆さんありがとうございました。

長崎県伝統工芸品/肥前島原 鍛冶屋「吉光」


category: ECO-MISSION2011,九州

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