パイプ組みの簡素な“駅”で小さなエンジンが唸りを上げる。ガクンと身体が揺さぶられてトロッコがゆっくり動きだすと、への字に折れ曲がったレールが一気に谷底へと向きを変える。そのまま転がり落ちそうな恐怖に駆られ、手すりを握る拳に目一杯力が入る。鬱蒼とした原生林に囲まれた治山工事の現場が、圧倒的な迫力で眼前に広がる。
川根本町を通る国道362号から大札山へ向かう峠道を1時間程登ると、路肩に角ばった岩が転がるダート(未舗装路)が現れた。コーナーを曲がるたびに大井川沿いの町は小さくなり、遥か遠方の山々が視界に入ってくる。このプリウスPHVで最長のダートを走った先に「榛原川大札北沢復旧治山工事」の看板を掲げたプレハブが見えてきた。
治山工事とは、崩落しやすい山腹を安定させ、植林事業や道路を確保するための土木工事。今回見せていただいた現場は、大規模に崩落した箇所を修復する工事が行われている場所だ。
「力づくではだめなんですよ。ポイントを押さえて山と折り合いを付ける事で、崩れにくい法面(のりめん)になるんです。」
そう語るのはグロージオの西條さん。ご存知の方も多いと思うが、エコミッションにも度々登場するチームACPのメンバーである。彼は8年前、奥大井の大自然に憧れて、生まれ育った神奈川県大和市から一家揃って移住し、自然の中で働けるこの仕事に就いた。持ち前の粘り強さと豊富な経験が買われ、今では所長として現場を指揮するまでになった。
西條さんに案内されて法面(のりめん)最上部に到着すると、足場用のパイプで組んだ簡素な“駅”にモノレールのトロッコが停まっていた。これに乗って谷底まで降りて、コンクリートで固めるだけだった従来の工法と、景観を守るために間伐材を土木資材として使った新たな工法が同時に見られるという治山工事の現場へ向かう事にした。
西條さんは「モノレールに乗って見に行く…」と簡単に言うが、そんな気安いものじゃ無かった。一気に谷底へ向かう様子は、下るというよりも垂直に落ちる感覚、両手足を踏ん張り、頼り無さそうなトロッコに命を預けた。
ジェットコースターなんて目じゃない程の異次元体験。上から見た時よりも遥かに広大な法面(のりめん)の迫力、巨木揃いの原生林をくねくねと蛇行するアプト式レール、上下左右に揺さぶられ、巨大な倒木にヘルメットを小突かれながら、ようやく谷底の“駅”に到着した。
これが見たかった。コンクリートを打っただけの無機質な従来工法と、景観を考慮して間伐材を使用した新しい工法が同時に見られる現場だ。明らかに手間と時間の掛かる工法だが、力づくで押さえつけるのではなく、自然との折り合いを表すに相応しい見事な出来映えだ。
迫力ある法面にしばし見とれていたが、にわかに天候が急変する兆しがあったため、急いで引き返す事に。乗り馴れたせいか、登りだからなのか、帰路は景色を楽しむ余裕が生まれ、景観を楽しみながら最上部の“駅”に到着した。
やはり山の天気は変わりやすい。山頂付近で湧いた霧が降りてきて、あっという間に濃霧に包まれてしまった。視界は10メートルに満たない。道路に転がる岩や崩れやすい路肩に注意しながら、慎重にプリウスPHVのステアリングを握り、無事に麓の川根本町へ降りた。
現場の興奮冷めやらぬまま、川根本町からさらに1時間程下った島田市にある株式会社グロージオ(GROWGEO)本社を表敬訪問する事にした。新築間もない本社ビルのエントランスには、山本社長をはじめ社員のみなさんが迎えに出てくれていた。
自然と共に事業を行っているグロージオは、環境保全や社会貢献にも熱心に取り組んでいる。社用車にハイブリッドカーを積極的に導入したり、障害者施設の支援を行ったりと、まさにGEO(地球)、地域との共生を実践しており、常に新しい環境事業を模索・実行するための部門を設けているという。
治山工事の現場を見学させていただいたお礼に、下り道でたっぷりと蓄えたプリウスPHVの電気を使ったデモンストレーションを見ていただいた。山本社長にヴィークルパワーコネクター(VPC)をセットしていただき、LED照明や電動シャワーなどが一斉に動く様子を披露すると、集まっていたみなさんから驚きの声が上がっていた。
「危険と背中合わせの山の現場にこのクルマがあれば、万一道路が崩れて孤立しても数日間は電気を使えますよ。自然の中で活躍する現場にこそプリウスPHVをオススメしたい。」
という横田さんの提案に山本社長も納得された様子。その後も楽しい談笑に花が咲き名残惜しいのだが、忙しい仕事の時間を割いてくれたみなさんにお礼を言って、グロージオ本社を後にした。
忙しい中対応していただいた山本社長、グロージオのみなさん
現場を案内してくれた西條さん、谷下さん、
ありがとうございました。
危険な山での作業の安全をお祈りしています。