エコミッションでは“エネルギー元年”と言われた2012年以降、火力、風力、地熱、原子力、水力などなど、積極的に各地の発電所を訪ねて来た。方法や規模に違いはあるものの、エネルギーが生まれる場所はいつも魅力に溢れていた。今回は豊根の奥深い山中で巨大な佐久間ダムを支える陰の立役者「新豊根ダム」を紹介したい。
Gazoomura 豊根の朝は早い。空が白み始めると野鳥が一斉にさえずり、森が騒々しくなる。清々しい風を入れようと開けておいた窓際まで近づいて大音量で鳴くものだから、おちおち寝ていられない。これも自然豊かな証拠とあきらめて起き上がった。
宿泊している「清水館」の朝食は、豪勢だった夕食に負けず劣らずのボリューム。しかし、その美味しさと早起きしたお陰でぺろりと食べてしまった。コーヒーを頂きながらダムまでのルートをチェックすると、ここからさらに奥深い山を駆け上がり、“みどり湖”湖畔の民家の途切れた先にあるようだ。お世話になった清水館のご主人と女将さんに別れを告げ、ダムを目指して急坂を上り始めた。
各地の水力発電書を巡ると、決まってダムの管理事務所へ立寄り“ダムカード”を貰うのが密かな楽しみになっている。直接ダムを訪れて訪問者名簿に名前を記入しないともらえない“ダムカード”は最近ネットを中心に人気が高まり、全ダム制覇に向けて活動する「ダムマニア」が増えているという。
鉄道マニアの横暴ぶりが問題になっているが、こちらは極めて健全。ダムマンを尊敬し、環境やエネルギー問題にも感心が高い彼らをダム関係者も好意的に受け止めているという。この事は実際にダムを訪れた時の職員のフレンドリーな対応からも納得できる。この良好な関係が末永く続くよう願っている。
天竜川水系大入川にある新豊根ダムは、山を挟んだお隣、天竜川本流の佐久間ダムとの間で水を交換しながら「揚水発電」を行う、少し変わったタイプのダムだ。佐久間ダムと言えば戦後土木工事の象徴的な日本屈指の巨大ダムだが、発電はここ新豊根発電所と二人三脚で行ない、最大147万5,000キロワットを生み出しているのだ。
電力が必要な昼には上池である新豊根ダムから佐久間ダム側へ放水し、電力消費の少ない夜間になると、タービンを逆回転させて水を汲み上げ、新豊根ダムに戻す事を繰り返しているのだ。電力会社にとって電気を生み出す水は貴重な財産。効率よく移動させる事で利益を生み出しているという訳だ。
いつものようにダムカードをもらうため事務所を訪れると、ニコニコと微笑みながら女性スタッフが現れた。聞けば昨日お世話になった観光協会の村松さんのご親戚の方で、我々がここへ来るという連絡が入っていた様子。ダム内部を見学させてもらえるという嬉しいサプライズをいただいた。
ヘルメットを着用し、所長さんの案内で点検用のキャットウォークまで降りるエレベーターに乗せていただく。唸るような音を立てて下ったエレベーターの扉が開くと、圧迫感のあるダム壁が目の前に迫っていた。上から見たときには狭いと思っていたキャットウォークは大人2人が並んで歩ける程広く、なかなか快適な歩き心地、ただし渡り通路の床はメッシュになっていてダムの底まで見渡せるから、高所恐怖症の方は要注意だ。
キャットウォークを歩いて、洪水時に水を吐き出すコンジットゲートのコントロール室を見学して戻るだけの短いツアーだったが、男性的な迫力を持つ新豊根ダムを存分に味わう事ができた。平日の都合の良い時に限り、事前の申し込みがあれば見学できるようなので、確認してから出掛けるのがおすすめだ。
環境とエネルギーを知るのに最適なダム見学。これほど楽しめてダムカードのオマケまで付いているのだから、興味のある方には是非おすすめしたい「ダムの一級ポイント」だ。帰路、みどり湖入口にあるレストランで名物の「新豊根ダムカレー」を頂きながら、キャットウォークの興奮を沈めた後、Gazoomura 豊根を後にした。
新豊根ダム職員の皆様、突然の訪問にも関わらず
キャットウォークを体験させていただきありがとうございました。
「ダム女」さんのお話も楽しかったです。