8月 17日 2011

壇ノ浦の戦いに敗れた平清盛の義弟・平時忠は能登への流刑が決まり、姓を時国に改めて輪島に移り住んだ後、困窮していた近隣の農村の救済を図り、この地を支配する豪農として800年の長きに渡り繁栄を続けた。輪島市町屋町周辺には国の重要文化財に指定されている「上・下時国家」をはじめとした歴史的建造物が点在している。遙か太古の時代、浅い海だった奥能登一帯は、豊富なミネラルを溜め込んだまま隆起し、半島随一の河川「町野川」流域に肥沃な土壌をもたらしている。平家ゆかりの「時国家」繁栄の背景には、この土地から授かった豊かな実りがあり、米どころとして全国的に知られる今に繋がっている。

登録有形文化財指定「南惣家住宅主屋」

登録有形文化財指定「南惣家住宅主屋」

両側を山に囲まれた町屋町の平地には、山の麓ぎりぎりまで田んぼが耕作され、青々とした稲穂が風になびく壮大な景色が広がっていた。ここにある建物はどれも統一感があり、黒瓦が特徴的な「輪島市大倉市営住宅」も景観に配慮した外観で静かな田園風景にマッチしていた。この土地に住む人達が地域ぐるみで“田んぼのある美しい町”を守り継承している事に感銘を受けた。

町屋町から15分程の海岸沿いに、5年前、当時の小泉首相が“絶景だよ、絶景”と言った事が報道され、全国的に知られるようになった「白米の千枚田」がある。崖を階段状に耕作した狭い場所に400年前に作られたという谷山用水を引き込み、田んぼが作られている。対面する高台に設けられた「千枚田ポケットパーク」の展望台から全体を見渡すと、美しい幾何学模様の棚田が古代遺跡のように斜面を彩り、まさに“絶景”。案内看板によると千枚田の名の通り、実際に1,004枚の田んぼが作られているという。

「白米の千枚田」の絶景

「白米の千枚田」の絶景

海側の田んぼの一番端に、折れ曲がったように見える一本の樹木が立っている。冬の日本海から吹きつける強風のために、陸側へ曲がって成長したようだ。近寄ってみると、海側の樹肌はささくれ、陸側には何本ものシワが刻まれている。この木の姿は、我々チームACPが敢行した「サウスアメリカ エコ・ジャーニー(2008年)」で訪れた南米大陸最南端の町“ウシュワイア”の峠に自生する「強風に耐える木」に酷似していた。
(当時のレポート:南極大陸まで1,000km足らず。時には風速60m以上の激しい強風に晒されるため樹木が変形している。それでも逞しく根を張り、早春に芽吹く姿に強い生命力を感じる。)

強風に耐えながら力強く生きる木

強風に耐えながら力強く生きる木

陽が日本海へ傾きだすと、それに呼応するように刻々と表情を変え、いつまでも眺めていたい気分にさせられる。田んぼの中には通路が張り巡らされ、一般客も立ち入って見る事ができるというので、急な斜面を下って田んぼの側へ行ってみた。展望台から見ると庭園のような景観も間近でみると、しっかりと畦塗りがされて引き締まった見事な田んぼに、稲が力いっぱい成長している。冬には強風に晒され、夏にはむせかえるような湿気の中、きつい傾斜を幾度となく往き来しながらの米作りの大変さから、にわかに荒れ始めていた棚田だったが、この美しい景観を守るため所有者を中心に組織された「白米千枚田愛耕会」による耕作・保存活動が行われ、オーナートラスト制度で協力者を募り、ボランティア参加による田植え・稲刈りイベントの開催など、地域を越えた力で日本の原風景「白米の千枚田」が守られている。

明日は能登半島を後に、富山へと移動します。
引き続き、素晴らしい日本の魅力をお届けしますので、お楽しみに。

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8月 16日 2011

トヨタ自動車運営サイトGAZOO.comが提案する“マチで暮らす人たちにムラでしか味わえない感動体験”をWebを通してナビゲートしようという、全国に58あるガズームラのひとつ、能登半島最北端にある「GazooMura珠洲」を訪れた。2006年に惜しまれながら廃止された「のと鉄道能登線」に代わる交通の動脈として重要さを増す「珠洲道路」を終点まで走った先に、珠洲の名勝「見附島」が見えてきた。

ガズームラブロガーさんが運営する道の駅「すずなり」さんに立ち寄る

ガズームラブロガーさんが運営する道の駅「すずなり」さんに立ち寄る

ガスームラブログで珠洲の観光や田舎暮らしの情報を公開中の「奥能登体験観光珠洲PR隊」さんに珠洲の見所を教えていただこうと「道の駅すずなり」に立ち寄った。ここを運営する「NPO法人能登すずなり(珠洲市観光協会)」では、特産品の販売をはじめ、自然豊かな珠洲を満喫できる体験プログラムのコーディネートも行っている。

風車の見える田園に建つ七輪工場

風車の見える田園に建つ七輪工場

能登半島一帯は珪藻土と呼ばれる太古の藻が蓄積した化石地層からなっており、これを原料にした七輪などのコンロ製品が珠洲の特産品として生産されている。珠洲市郊外にある「能登燃焼器工業」さんでは珪藻土を粉砕せずに切り出した塊から、ノミを使った削り出し成形という世界的にもめずらしい技法でコンロを生産しているというので訪れることにした。

幹線道路を外れた谷間に広がる田園風景に溶けこむように、黒瓦とレンガの煙突が印象的な工場が建っている。あいにくお盆休みで生産はしていなかったが、舟場社長のご厚意で中を見せていただくことができた。珪藻土を切り出すために裏山にぽっかりと口を開けた坑道の入口からは天然の冷蔵庫のように、ひんやりとした冷気が霧となって吹きだしている。ここから切り出された珪藻土のブロックを何種類もあるノミを使い分けて削り出し、美しい造形のコンロ作品が生み出されていく。自然素材を使った失敗のきかない成形は、修練の積み重ねが成せる匠の技。この切り出しコンロは、使う喜びを味わえるのはもちろんだが、眺めているだけで豊かな気持ちにさせられる、まさに一生モノの風格ある逸品だ。

匠の技で珪藻土の塊が美しいコンロに生まれ変わる

匠の技で珪藻土の塊が美しいコンロに生まれ変わる

珠洲のもうひとつの特産品である塩は、500年前と変わらない「揚げ浜」という技法で作られており、海岸線に塩田が点在している。「奥能登塩田村」では、昔ながらの塩づくりを体験できるというので、参加するご家族2組の皆さんとご一緒させてもらった。テニスコート程の広さの固い塩田に海水と砂を撒き、太陽の熱で蒸発させながら塩分濃度を上げ、砂をかき集めて濃い塩水を作り、それを煮詰めて塩を取り出すという、言葉にすれば単純な作業だが、それぞれの工程でタイミングやコツが要るこれまた匠の世界。何よりも炎天下で重い砂や塩水の入った桶を担ぐ重労働を長時間続ける苦労は並大抵の事ではない。参加した子供たちも額に玉のような汗をかきながら、塩の大切さを実感したことだろう。

みんなで砂をかき集める

みんなで砂をかき集める

重労働の末、仕上がった塩を受け取って一口舐めてみると、角の取れた柔らかなしょっぱさに笑顔が溢れる。子供たちにも印象的な良い経験になると、体験希望者が増えて予約が取りにくい状況だというが、自然と向き合う労働の大変さ、食べ物に対する感謝の気持ちを実感できる、夏のユニークな思い出作りに、家族連れで参加してみてはいかがだろう。

GazooMura珠洲で訪れた場所

■珠洲市野々江町 道の駅「すずなり」
 www.notohantou.jp/

■珠洲市上戸町 能登燃焼器工業株式会社
 www.suzu.co.jp/notonensyouki/

■珠洲市清水町 奥能登塩田村
 www.okunoto-endenmura.jp/

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8月 15日 2011

能登有料道路を北へ向かうと、横田インターチェンジ辺りで杉林に覆われていた道路際の視界がぱっと開け、美しい田園風景が広がる。七尾市中島町を流れる熊木川中流域には、手入れの行き届いた田んぼを従えた立派な農家の建築群が建ち並んでいる。能登の家屋の代名詞ともなっているピカピカの黒瓦に板壁が特徴的で、近隣どうしで示し合わせたような統一感がある。穂が重みを増して垂れ始めた黄緑色の田んぼに黒瓦の引き締まった建物、遠くには風力発電の風車がゆっくりと回転し、用水路の脇には向日葵が植えられ、景観を一層引き立たせている。

七尾市中島町古江の田園風景

七尾市中島町古江の田園風景

社会や環境に適応しながら何世紀にも渡って発達し、形づくられてきた土地の利用、伝統的な農業とそれに関わって生まれた文化、景観や生物多様性に富み、世界的にも重要な地域を次世代に継承する事を目的とし、イタリア・ローマに拠点を持つ国連食糧農業機関(FAO)が創設した「世界農業遺産」に今年6月、能登の里山里海が認定されたという(先進国としては初「トキと共生する佐渡の里山」とともに認定)。幾代にも渡る持続的な農林水産業の継承によって育まれた素晴らしい景観と、その舞台で脈々と生きづく伝統的な技術、文化、祭礼などが高く評価されたもので、この地に足を運んで目の前に広がる景観をみれば当然の結果に誰もが共感できるだろう。

ひまわりも美しく咲く

ひまわりも美しく咲く

エコミッションで日本各地を巡っていると、目抜き通りには全国展開する大型チェーン店が軒を連ね、その地域が本来備えていたであろう伝統風景が失われている事に落胆することも多いのだが、こんな風景が点在する奥能登地方には、あらためて魅力を感じる。奥能登を訪れる機会があれば有名観光地だけでなく、何気ない農村に目を向けてみてはいかがだろう。田んぼを歩き、農家の建物を見てまわると、細かい所にまで手入れが行き届いた環境で、地に足のついた丁寧な暮らしが続けられている事に気づくのではないだろうか。

明日は能登半島最北端の町、珠洲の魅力をお届けします。
お楽しみに。

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