10月 20日 2011

六ケ所村周辺は海岸線と平行に小高い丘が連なる独特な地形で、丘の頂上付近に建てられた風車が海岸線と平行して幾重にも並んでいる。海へ向って進むと、晴れ渡った青空をバックに白い風車がくるくると回転しながら地平線をせり上がってくる迫力の光景を見る事ができる。風車を始めとするエネルギー関連施設が建ち並ぶ「環境・エネルギー産業創造特区」の中心部を離れ、村の北側に新しく造成された住宅地の一角にある、次世代のスマートグリッドを取り入れた実証実験が行われているスマートホームを訪ねる事にした。

スマートホーム実験棟に2台のプリウスPHVが顔合わせ

スマートホーム実験棟に2台のプリウスPHVが顔合わせ

ここでおさらい「スマートグリッドとは?」
「賢い(スマート)電力網(グリッド)」という言葉が示す通り、発電所から一方的に送電されるだけだった従来の電力網を進化させ、電力会社と消費する側の機器、小規模発電設備等の情報を総合的に双方向で共有し、分散型管理によって効率化を図るという次世代電力網技術。PHV(プラグインハイブリッド車)やEV(電気自動車)、家庭用太陽光発電などの普及が見え始めたことから、その必要性が論じられるようになり、省エネルギー・低炭素化社会を実現するための手段として各地で実証実験が行わてれいる。

スマートグリッドの仕組みを相関図で解説

スマートグリッドの仕組みを相関図で解説

エコミッション2011@ジャパンでは、これまでにも八幡製鉄所からの排出水素による燃料電池を活用した「北九州市環境ミュージアムエコハウス」やスマートホームの先駆け「トヨタ夢の住宅PAPI」などを訪問してきたが、ここ六ヶ所村にある実証実験では2棟の実験棟(協力他社含め現在6棟)が既存の電力インフラに一切頼る事なく、屋根に設置した太陽光発電パネルや小型風車による自前の電気をベースに、自然エネルギーで発電・備蓄している電力供給施設とを、新たに敷設した送電線と情報通信用光ファイバーによる自営線で直結し、エネルギー消費を統合的にコントロールするトヨタ独自のシステム「トヨタ スマートセンター」での本格的な実証実験が行われているのだ。

スマートホームを案内してくれた皆さん

スマートホームを案内してくれた皆さん

村の北側にある中学校付近という情報だけで周辺を探すこと30分、ようやくガレージに停車しているプリウスPHVを見つけて、この家が実験棟だと分かった。それほどまでに外観上は一般の住宅と区別が付かず、街に溶け込んでいる印象だ。玄関先で待っていてくれたのはトヨタ自動車の森さんはじめ、トヨタホームの方々。実験に使っているものと同型のエコミッション号で訪ねた我々を歓迎してくれた。

挨拶を交わした後、ガレージのプリウスPHVとエコミッション号を入れ替えて単相200Vを供給する自立型充電プラグを“プラグイン”している間、実験棟を見せていただくことにした。外観と同様に家の中も特に変わった様子は見受けられない普通の新築住宅といった印象だが、その裏では「HEMS(Home Energy Management System)」が各部屋の電力消費量やガレージで充電しているプリウスPHVへの供給量、屋根に設置された太陽光パネルの発電量など、電気に関わる全ての事象を捉えディスプレイに表示していた。同様の表示がテレビやパソコンにも表示可能で、“見える”がもたらす省エネ効果が期待されている。

常に最適な使用状況を制御・表示するHEMSモニター

常に最適な使用状況を制御・表示するHEMSモニター

屋外へ出ると、ガレージには燃料電池ユニットが、そして家の側壁面には送電メーターが設置されている。これは太陽光パネルで発電された電気が使用量を上回った場合、電力供給施設へ送電する際にカウントされるもので、他にもヒートポンプ給湯機「エコキュート」などが並ぶ。屋根に設置された太陽光パネルの発電量は5.5kw/hと一般家庭用としてはハイスペックで、この発電だけでプリウスPHVに充電可能というポテンシャルを持っており、次世代を担うハイテク装備満載な住環境を備えていた。この実験棟には社員さんが実際に暮らしており、さまざまなシチュエーションでの問題点などをレポートし、システムのブラッシュアップに努めているという。近い将来、こうした実験棟のデータが生かされたスマートホームが建ち並ぶ住宅街が、日本中で見られる日がやって来るだろう。

スマートホームを案内していただいたトヨタ自動車の森さん、お集まりいただいた皆さん。ありがとうございました。
理想のスマートグリッド実現に向けて頑張ってくさい。

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10月 19日 2011

真冬のような寒さの曇天だった昨日とは一転、下北半島の2日目は快晴の朝を向かえた。朝はさすがに冷え込んだものの、陽が高くなるに連れてみるみる気温も上がり、季節がひと月ほど逆戻りしたようなポカポカ陽気の一日となった。

むつ市から国道338号線を南下して海沿いのルートを進むと、松林の隙間から垣間見える太平洋の表情も穏やかで、強い日差しが浅場の海底まで届き、澄んだ緑色に輝く美しい表情を覗かせる。幅員も狭く、入り込んだ海岸線をなぞるようにくねりながら住宅地を抜けるルートは、景色を楽しむだけなら趣のある良い道なのだが、エネルギー産業の重要な拠点を貫く主要国道にしては役不足で、なかなかペースが上がらない。、随所で拡張工事やトンネルの建設が行われていたので、完成すれば大幅な移動時間の短縮が見込まれるだろう。

向かった先は、構造改革特区制度を活用して青森県と国が推進する「環境・エネルギー産業創造特区」の中心地、六ケ所村だ。環境・エネルギー分野で、他の地域に先駆けて思い切った規制緩和を実現し、先駆的なプロジェクトの導入を進める巨大実験場とも言えるこの地域一帯には、分散型電源普及のための実証研究や、送電・通信インフラ設備の共同利用、風力・太陽光・バイオマス発電など、未来を担う新エネルギー開発の先端技術が集結している。

全体で64基もの風車が並ぶ

全体で64基もの風車が並ぶ

六ケ所村が近づくと風車群が見えてくる。関連各社が凌ぎを削る風車は合計64基もあり、この地域のどの場所からも風を受けて力強く回転する巨大なローターを見る事ができる。風車や太陽光などの自然エネルギーの弱点は、天候に左右されやすく安定供給が難しい事だが、これを解決しようという実験施設を訪ねて見た。日本風車開発グループのイオスエンジニアリング&サービスさんは、風車や太陽光パネルで発電した電気を「NASバッテリー」に蓄電し安定供給を図っている。輸出用コンテナほどの大きな白い箱が並ぶ施設を外から見ていると、作業中の方が声を掛けてくれた。

敷地内に入る事を許可してくれた

敷地内に入る事を許可してくれた

エコミッションの主旨を簡単に説明しながら、断られるのを覚悟で充電をお願いしてみると、六ケ所村事業所副所長 森山さんの取り計らいで、すぐさまOKしてもらい施設内へ入ることができた。さっそく自然エネルギーで発電した電気をNASバッテリーに蓄え、単相200Vで出力したケーブルからプリウスPHVに充電させていただく。森山さんの話では、東日本大震災当時この周辺一帯も停電して一部被害も報告されたが、ここには電気がたっぷりと蓄えているので、様々な支援を行うことができ、各地のスマートグリッド実証実験ハウスでも、炊飯器による炊き出しを行ったというので。万が一の災害にも有効な自然エネルギー備蓄設備の可能性を感じるエピソードを伺う事ができた。思いがけない好機会に感謝しながらイオスエンジニアリング&サービスさんを後にした。

六ヶ所村事業所の副所長の森下さん

六ヶ所村事業所の副所長の森下さん

森下さんはじめ、イオスエンジニアリング&サービスの皆さん。
突然の訪問にも快く応じていただきありがとうございました。

イオスエンジニアリング&サービスさんに充電をお願いした

イオスエンジニアリング&サービスさんに充電をお願いした

ドライブムービー(むつ市〜六ケ所村〜横浜町)

Music by DEPAPEPE

明日は六ケ所村で行われているスマートグリッドハウスの
実証実験をレポートする予定です。
お楽しみに。

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10月 18日 2011

津軽海峡の航路を導く尻屋崎灯台

津軽海峡の航路を導く尻屋崎灯台

むつの町を抜けてなだらかな丘陵地を駆け上がると、市街地の先には男性的な輪郭が特徴的な燧岳(ひうちだけ)が勇壮な姿を現し、周囲は見事に手入れの行き届いた銘木「青森ヒバ」の森林が広がっている。最後の丘を越えて視界が開けると、正面には吹き荒れる強風に白く泡立つ津軽海峡が見えてきた。重い鉛色の雲が立ち込め、時折小雨も混じる悪天候だが、無彩色の背景がいかにも最果ての地にふさわしい絶景に重厚な風格を与え、先端の尻屋崎に到着するまでの間、カーブを曲がるたびに表情を変える大パノラマに、何度となく“すごい!”と声を上げながらの感動ドライブを味わう事ができた。

高い波と“サラシ”で真っ白に泡立つ海岸

高い波と“サラシ”で真っ白に泡立つ海岸

昨日乗船した函館からのフェリーが大間港に着いた時にはすでに陽が落ち、街灯の少ない真っ暗闇のルートをひた走ってホテルに到着したのは午後8時。夕食を食べに繁華街へ出掛けたものの、開いているのは居酒屋ばかりで途方に暮れていると、のれんを下ろしかけていた一軒の中華料理屋が目に止まり、慌てて声を掛けて店に飛び込んだ。食事が済んで店主と雑談している中で、尻屋崎に寒立馬を見に行く話を持ち出すと、知人が寒立馬を管理している牧野組合の組合長だと聞かされた。是非お会いしたいとの申し出に快く応じて先方へ電話まで掛けてくれた。全くもって縁とは不思議で、なんと奥深いものだろうか。

尻屋崎にある東通村に到着して、むつ市の中華料理店「五十番」の店主に紹介された、尻屋牧野組合長の寺道さんを訪ねてお宅を探していると、一台の軽トラックが追い抜いて停車し、がっしりとした体格の男性が降りて近づいてくる。もしやと思って尋ねると、やはり寒立馬の寺道さんだ。ちょうど本業の昆布漁から戻る途中で、運良く出くわして声を掛けてくれたのだった。昆布の加工場がすぐ側にあるというので中を見せてもらうと、温風を送り込んで乾燥させるための部屋には磯の香りが立ち込め、大量の昆布が天井から下がって出荷を控えている。キレイに切り揃えられた乾燥昆布が積み上げられているのを見ていると、おもむろにビニール袋を取り出し、鷲掴みで昆布をつめこんで“ほれ、持ってげ”と無造作に差し出した。最果ての牧野で寒立馬を育てている寺道さんは、朴訥とした男臭い魅力的な方だった。

昆布の乾燥場で作業する寺道さん

昆布の乾燥場で作業する寺道さん

寺道さんの話では、寒さに耐える持久力と野に放っても自分で食べ物を見つける賢さから、馬屋を必要とせず、長いあいだ野生馬のような状態で飼われて来たが、時代の移り変わりと共に平成7年には9頭までその数を減らし、飼育を止めようと思っていた時に、貴重な寒立馬を守ろうという保護政策がはじまった。現在は40頭ほどに数を増やしているが、この牧野の広さではこれが精一杯でこれ以上増やすつもりはないという。地元では「野放し馬」と呼び、特定の名前は無かったが、尻屋小中学校の校長の岩佐勉先生が詠んだ短歌が由来となって寒立馬と呼ばれるようになった。

東雲に勇みいななく寒立馬 筑紫ヶ原の嵐ものかな

「かんだち」という言葉はカモシカが厳冬のなか、何日もじっとたたずむ姿を地元のマタギの間では「カモシカの寒立」と呼び、校長先生は、野放し馬にも同じような姿を見ることができることから「寒立馬」と命名したと語っている。

珍しい授乳の様子が見られた

珍しい授乳の様子が見られた

尻屋崎周辺は誰でも散策できるが寒立馬が遠くへ行かないよう手前にゲートがあり、日中のみ一般に開放されている。絶景の中で風雪にじっと耐える健気な姿が人気で、観光客も増加しているが、寺道さんの話では、馬を良く知らない方が犬を連れて来て、馬も犬も双方が驚いて暴れるのに巻き込まれて、怪我をするケースが増えているというので注意して欲しいとの事だ。

寺道さんの寒立馬を見に来る時の注意ムービー(下北弁)

尻屋崎には通年強風が吹きつける事から、日本で初めて本格的な風力発電所「岩屋ウインドファーム」が建設された事でも知られている。東通村から山道を登ると、津軽海峡をバックに林立するたくさんの風車が一斉に回る、壮大な風景を目にすることができる。岩屋ウインドファームでは25基の風車で一般家庭3万戸分の電力消費量に相当する最大32,500kwの電気を発電しているが、そのほとんどは尻屋崎で消費される事無く、巨大な変電施設で整流された後、大掛かりな送電線で都市部へと送られて行く。

東京から訪ねた我々の体感温度は真冬以下と、顔がこわばるほどの寒さを体験したが、寒風に絶える寒立馬と、それを活用する風力発電という不思議な取り合わせが、津軽海峡を望む絶景に繰り広げるシーンの数々を目に焼付けながら、尻屋崎を後にした。

ドライブムービー(むつ市〜尻屋崎灯台〜岩屋ウインドファーム)

Music by DEPAPEPE

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