7月 9日 2013

キューブ状にプレスされ資源として産声をあげる

キューブ状にプレスされ資源として産声をあげる

多くの人にとってクルマは、単なる移動手段として割り切ることのできない魅力的な存在だ。誕生以来120年余の間、歴史の表裏を問わず数々のストーリーには決まってクルマが登場してきた。モータースポーツに興じたり、クルマ弄りが趣味という人だけでなく、家族旅行の思い出のひとコマにだって、クルマは欠かせないマストアイテムだったに違いない。今この時間にも皆さんの愛車が新たなストーリーを綴っている真っ最中ではないだろうか。

しかし、どんなに思いを馳せようともクルマは機械。経年劣化で故障したり、不運な事故で壊れてしまったりする。やがて修理できないとなれば、そのほとんどが登録抹消の後、廃車処分という末路を辿る。

今日訪れたのはさらにその先、
クルマの「終わりと始まり」が交錯する現場だ。

環境保全の代名詞“3R”を冠する責任

2000年(平成12年)に「循環型社会形成推進基本法」が施行され、3R(・リデュース ・リユース ・リサイクル)の考え方に基づく廃棄物処理およびリサイクルが行われるべきであると定められた。

リデュース:できるだけゴミを出さない。
リユース:使えるものは再利用する。
リサイクル:資源として再生する。

埼玉県久喜市にある株式会社3R(スリーアール)はこの名を冠し、クルマの解体処理を通じて資源循環型社会の一翼を担っている。過去には不法投棄などの問題が多発し、決して良いとは言えなかった自動車解体業で、あえて“3R”を名乗るには、相応の覚悟が要ったに違いない。

現場主義の山口社長は常時ツナギ姿だ

現場主義の山口社長は常時ツナギ姿だ

自動車リサイクル法が施行されてから許認可が厳しくなった自動車解体業において、3Rでは更なる挑戦を始める。まずは工場のハード、ソフト両面から徹底した環境保全対策を施し、2002年に環境マネジメントシステム国際規格であるISO14001を業界に先駆けて取得した。これは対外的というよりも、むしろ社員の意識向上のためだったという。

ツナギの上半分を腰でしばり、ヘルメット姿の山口社長は、徹底して現場主義にこだわる。そんな社長指揮のもと、再利用可能なパーツの摘出方法改善や、油脂類が及ぼす環境へのダメージ撲滅など、全行程に渡る創意工夫に満ちたマネジメントには、社名に恥じない自信とプライドがみなぎる。

すべての工程は環境保全のためにある

常務の濱田さん、執行役員の遠藤さんの案内で、解体の流れに沿って工場内を見学させていただいた。積み上げられたストックの山から1台のクルマがフォークリフトで前処理コーナーに運ばれてくる。

「クラクションが鳴ったら爆発させますから驚かないでくださいね。」

長めのホーン音の直後、衝撃とともに“ドッカーン”という爆音が鳴り響く。めったにお目に掛かれないエアバッグの解放シーンだ。この爆発音を合図にクルマは解体されていく。

エアバックの爆発音にびっくり

エアバックの爆発音にびっくり

クルマにはガソリンやオイルなど解体時に漏れ出して危険を伴うものや、エアコンに使用しているガスのように大気解放が法律で禁止されているものが含まれている。これらを同時に抜き取る作業が次の工程だ。特に興味深いのがガソリンを抜き取るマシンで、尖ったビットでタンクに複数の穴を空け、ロート状の筒で回収する。廃車になったクルマだというのに平均残量は約15リットル/台もあり、欧州の3倍以上。日本人の贅沢、いや浪費体質を垣間みたような気がする。ここで回収されたガソリンは地中のタンクに貯蔵され、工場内の車輛などで使用されている。また、液体を扱うこの場所は浸透を防ぐ特殊な床面で、土壌汚染への配慮も徹底されている。

油脂類やLLCなどを抜き取っていく

油脂類やLLCなどを抜き取っていく

ここからは手作業によって使用可能なパーツを丁寧に取り外して行く。多様な規格があるパーツ類は機械などで破壊して取り出すと、ゴミを増やしたり再利用出来なくなる事もあり、これも環境に配慮しての事だ。取り出したパーツ類はきっちりと分類してデーターベース化され、その情報をインターネットで共有し、需要に応じて修理業者などに届けられる。

資源としての新たな旅立ち

フレーム、アッパーボディー本体、再利用できないエンジンなどは、資源として生まれ変わる事になる。鉄、アルミニウム合金、銅、レアメタルなどの金属類、タイヤ、パッキンに使われているゴム類、バンパーやダッシュボードの樹脂類、ガラスなど、クルマは実に多くの素材で構成されている。これを出来るだけ細かく分別する事がリサイクル率を上げる鍵となる。大型重機や専用器具、人の手を使い分けて解体作業が行われているこの広大な建物は、リサイクル率100%を目指す戦いの場のようだ。

広大な解体工場

広大な解体工場

海外需要に応えるために

日本で廃車される走行距離は平均12万キロ程度だが、海外では30万キロを楽に超えるクルマが元気に走り続けている。そもそもクルマは50万キロを想定して作られているというのだから、日本人は随分ともったいない使い方をしているのかも知れない。海外での日本車の評判は今さら語らずともお分かりだろう。パーツにしても高値で取引されているのは同じで、ここ3Rにもロシアや東南アジア、アフリカなど世界中のバイヤーが足を運んでいる。

遠くガーナから現地で必要な部品を探しに来ている

遠くガーナから現地で必要な部品を探しに来ている

海外との部品ビジネスではパートナー選びが重要だという。山口社長自ら現地に出向き、社長以下スタッフとコミュニケーションがとれるか、どの位の部品を在庫しているか、販売先は確保できているか、環境保全を行っているかなど、しっかり確認したうえで、取引先を決めているという。

取引が始まるとパートナーからスタッフが派遣され、現地で需要のある部品を3Rの工場で探すという。今日もアフリカのガーナから遥々やってきた方々とお会いする事ができたが、貴重な外貨で部品を買うので間違いなく売れるもので状態の良いものを1点1点選んでいるのだそうだ。日本で職を得て仕送りするより、コンテナ一杯の部品を現地で売る方が、よほど実入りがいいとの事。いやはや、商魂たくましい彼らの笑顔が妙に清々しく印象深かった。

技術と情熱が生み出す真の静脈産業

高度経済成長が始まった1955年頃から、血液を全身に送る動脈のように勢い良く製品を作り続けて来た日本は、大量生産・大量消費を続けた末に、環境破壊や資源枯渇といった問題に直面している。経済行為は決して“悪”ではないが、血液の流れが一方向「動脈」だけだったのではないか。数年前から、廃棄してきた“資源”を高度な技術革新によって循環させる仕組み、例えるなら、人体のように筋肉で使った血液を回収して浄化し、再び心臓へ送りとどける「静脈産業」が注目されている。

帰り際、濱田常務はこう話してくれた。

「この会社が行っているのは、リサイクルの入口に過ぎません。キューブ状になったクルマはシュレッダーで破砕され、さまざまな工程を経てようやく“資源”として生まれ変わるのです。そういう次の工程を任せる業者も環境保全に敏感なところを厳選しています。リサイクル業界全体、ひいてはメーカーや消費者も、一丸となって関わりを持たないと、リサイクル率100%を達成する事はできません。」

陽が傾きわずかに赤みを帯びた空の下、生まれ変わろうとするクルマがトラックに満載されて運び込まれるのを見ながら、愛車のプリウスPHVで解体工場を後にした。

株式会社3RのHPはこちらから

埼玉県久喜市 株式会社3R訪問

なかなか知る事の出来ない“静脈産業”の現場を
大変興味深く拝見いたしました。
山口社長さんはじめ 濱田さん、遠藤さん、
(株)3Rのみなさまありがとうございました。



カテゴリー: ECOMISSION2013,埼玉県

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