“どんぐりを預かってください。”
“はい。それでは一緒に数えてみましょうね。いち、にい、さん…ごじゅう。50D(どんぐり)ですね。”
“また来週、お母さんと森に行って拾ってきます。”
“たくさん拾ってきてね。ありがとうございました。”
銀行の窓口さながらに、こんな楽しいやりとりで全国に広まった「どんぐり銀行」は、ここ香川県高松市で、1992年10月に誕生した。
森と人との距離を近づける「どんぐり銀行」という素晴らしい取り組みがスタートして20年。当時の子供たちはお母さんになり、自分の子供を連れて森へ出かける。そんな微笑ましい光景が繰り広げられている森の入口「どんぐりランド」を訪ねた。
エコミッションで2001年に高松県庁を訪れて話を伺った事がある「どんぐり銀行」。当時は活動フィールドの拠点は無かったが、確認すると高松市郊外に「どんぐりランド」という施設が出来ているというので訪問する事にした。
高松市街中心部を抜け出して内陸へ向かうと、均整のとれた三角形の通称“おにぎり山”があちらこちらに見えてくる。その山々がだんだんと距離を詰め、やがて大きな森になった場所に「どんぐりランド」があった。四国一番の都会から、ものの20分も走れば、深く豊かな自然に抱かれることができてしまうのだ。
「どんぐりランド」のサインボードを見つけて脇道の坂を下ると、大きな屋根が印象的なビジターセンターの建物が見えてきた。プリウスPHVはEVモードでそっと走り出し、静かに森へと入っていった。
ひとりの子供がプリウスPHVを見つけて駆け寄ると、どこに隠れていたのか、たくさんの子供たちとお母さんが森から現れ、あっという間に取り囲まれてしまった。
クルマを降りて「こんにちは」とご挨拶。子供たちは大きな声でそれに応える。
“ 森に包まれたこの場所で電気を使えたらびっくりするぞ ”
いたずら心でヴィークルパワーコネクターをセットし、シャボン玉マシンを動かして見せた。これには子供たちもお母さんも大喜び。気を良くして電動シャワー、LED照明や信号機も披露すると、一番人気は電動シャワー。森で遊んでちょっと汚れた手を、競うようにシャワーにかざして洗いはじめる。小さな男の子は頭から水を浴び、それでも笑顔で走り回る。ここに居るみんなの笑い声が森にこだまする、幸せなひとときを味わう事ができた。
「どんぐり銀行」のはじまりから、森と子供たちを繋ぐ事に携わってきた「どんぐりランド」の白井さんに話を伺った。
「どんぐり銀行が始まった頃は、どんぐりを拾うために森に出かけ、森を身近に感じてもらう事が第一の目標でした。預かったどんぐりは、仮想通貨D(どんぐり)としてさまざまな品物と交換できることで、その効果は確かにあったと思います。10年前に出来たこのビジターセンターの施設も、その大きな反響を受けて作られたものです。しかし、本来の目的は、どんぐりを拾う行為ではなく、人が森との関わりを持ちながら継続して行う、健康な森づくりです。」
全国に林立する「どんぐり銀行」の“景品交換所”のような状況に、そう疑問を呈する。
アウトドアブーム絶頂期だった当時と比べ、森へ出掛ける家族が少なくなった事や、世の中の不景気も「どんぐり銀行」運用に陰を落とし、以前にはあった“利子”や、払い戻しで交換するグッズの減少などを余儀なくされているというが、悪い話ばかりではない。ここへ到着した時に大歓迎してくれた子供たちやお母さんは、森で遊び、学ぶ楽しみを十分に理解する「山歩隊(さんぽたい)やまのようちえん」のメンバー達だった。
お母さん達に話を伺った。
「夫の転勤で横浜から高松に来ました。すぐそばにこんなに自然いっぱいの場所があるのは本当に驚きです。この場所でのびのびと子供と遊べるだけで幸せですよ。今度は“山歩隊(さんぽたい)”の話も聞きにきてくださいね。」
“子供たちを遊ばせてもらう代わりに、森に恩返しをする” そんな活動が若いお母さんたちから始まっているのを知り、もう嬉しくてたまらなかった。すでに物質対価を求めて参加する時代は終わり、豊かな暮らしに不可欠なものが“森の再生”であるという認識を持つ成熟した時代が始まっている。
どんぐりランドの白井さん、遊んでくれた子供たちやお母さん方
楽しい時間をありがとうございました。
これからも安心して遊べる森づくりを楽しんでください。
香川 どんぐり銀行(どんぐりランドビジターセンター)
カテゴリー: ECOMISSION2013,環境,香川県
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