瀬戸内海と日本海との分水嶺に別れを告げ、急な坂道を下りながらプリウスPHVのエネルギーモニタに目をやると、登りで使い切ったバッテリーがみるみる回復していくのがわかる。長い下りの恩恵を受けて満充電に近づいた頃、陽が傾き始めた中国自動車道へ乗った。
右手には、さっき降りて来た山から電気を街へ送り出す大きな送電鉄塔が林立している。私たちの生活は電気無しには成り立たないのだと、つくづく考えさせられる光景だ。
兵庫県朝来市の山深い場所に、国内最大発電量を誇る水力発電所がある。分水嶺の急峻な地形を上手く活用し、高低差400メートルの2つの池を使った揚水発電を行っているのが奥多々良木発電所だ。
今年6月に訪れ、設備の大きさに度肝を抜かれた沼原発電所と同じ揚水式だが、ここの発電量は1,932,000kWと2倍以上。揚水式としての最大出力は世界一の発電所と知り、見学させていただく事にした。
揚水発電は高低差を利用した方式なので、急峻な山の尾根に建設される事が多い。奥多々良木発電所もかなり険しい山中にあり、携帯電話も繋がらないとの事。担当していただいた関西電力広報の梅元さんとの連絡が付かなくなるのを懸念して、麓の「道の駅あさご」で待ち合わせた。
ここからは梅元さんのクルマに先導してもらい、さらに険しい山中へと向かった。途中、崖のような場所に建つ送電鉄塔が幾つもあり、建設の苦労がひしひしと感じられた。
ようやく奥多々良木発電所に到着すると、深い山中で働く男っぽさを放つ姿が印象的な、所長の田口さんが笑顔で出迎えてくれた。事務所に通されて、所長自ら発電所の特徴についてビデオを観ながら解説していただいた。映像からも規模の大きさが伝わり、この後の現場見学がますます楽しみになった。
所内のクルマに乗り込み、岩盤をくり抜いた薄暗いトンネルの奥へと進む。途中にある“交差点”で減速し、田口所長が解説してくれた。
「上池から複数のパイプに水を流して発電しているので、設備が並んで建設されています。この横方向のトンネルで各施設と繋がっているんですよ。」
発電量が国内最大といっても、ひとつの巨大なものではなく、6台のポンプ水車を連結させて大きな発電量を生み出しているという訳である。
ここで揚水発電とはどんな発電方法なのか“おさらい”して見よう。
時間帯や季節によって電力消費量にはバラツキがある。例えば真夏の午後、涼を求めて一斉にエアコンをつけると、当然たくさんの電気が必要になるし、反対に過ごしやすい季節の深夜帯には消費量は少なくなる。そこに着眼し、消費量の少ない時間帯の余った電力を使って、電気エネルギーを位置エネルギーに転換しようという発想から生まれたのが揚水発電だ。
仕組みは至ってシンプルなもの。高低差のある2つのダム湖をパイプで結び、ポンプ水車を取り付ける。電力消費が少ない時に余った電気でポンプ水車を回転させて、高い方のダム湖へ水を汲み上げる。電気が足りなくなった時には低い方のダム湖へ落差を利用して水を戻し、その水圧でポンプ水車を回転させて発電する。需要と供給のギャップを埋める、言わば「巨大な電池」のような画期的な方法である。
ここ奥多々良木発電所の規模が大きいのは、大きな池に蓄えた水量と、それを活かすだけのポンプ水車の数だ。上下のダム湖は「ロックフィル」と呼ばれる岩石などを何層にも積み上げた強固な構造で、主に大型ダムに見られる工法で建設されている。発電施設のある中腹から、さらに尾根に近い場所までクルマを走らせ、黒川ダム湖(上池)を見に行った。
険しい山をもろともせず、電気を安定供給するために大規模なダムを建設した苦労は並大抵の事では無かったはずだ。近い将来、利根川と信濃川の分水嶺に建設中の神流川発電所が完成すると、日本一の称号を明け渡す事になる奥多々良木発電所だが、急峻な山にしっかりと存在する“男っぽい”姿は、決して見劣りする事はないだろう。
今日も深い山中から電気を送り出してくれる奥多々良木発電所訪問は、エコミッション@瀬戸内の締めくくりに相応しい、有意義な経験となった。
奥多々良木発電所のみなさん、広報の梅元さん
お忙しい中、丁寧にご案内いただきありがとうございました。
カテゴリー: ECOMISSION2013,エネルギー,兵庫県
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