エコミッションの夜は長い。撮影した画像や動画の整理、原稿のライティング、次の訪問先の下調べなど、やるべき事がたくさんあって、ついつい夜更けまで宿泊先のデスクに張り付いてしまうからだ。それでも美しい海岸や、深い森の中に滞在している時にはその誘惑に負け、夜だけでなく早い時間から辺りを歩き回る事がある。そんな魅力的な場所の中でも倉敷は別格。滞在中、昼夜を問わずホテルを抜け出し、美しい町並みの“誘惑”に身を委ねた。
倉敷「昼物語り」
午前6時。倉敷の朝は観龍寺の“時の鐘”の音とともに目覚める。
この鐘は江戸中期(1724年)に創建されて以来、倉敷の町に時を告げ続けて来た。明治初期に新造されたものの、第二次大戦時に国策の金属回収に応じて失ったため、現在あるものは三代目、終戦後に大原総一郎氏がデザインを棟方志功に託して寄贈されたものだという。温かみを感じる柔らかな音が、ひんやりとした朝の空気を伝って心地よく響き渡る。
鐘の音に誘われて鶴形山へと続く石段を登り、町を俯瞰から眺めて見ると、灰銀の屋根瓦が幾重にも続き、後方には瀬戸内海に突き出した児島の龍王山まで見渡す、素晴らしい眺望を楽しむ事が出来た。
阿智神社の参道にある石段を下り、美観地区の中心へと足を運んだ。早朝から繰り出す多くの観光客に交じって、遠足で訪れた小学生の団体が列をなして近づいてくる。その中のひとりが「こんにちは!」と大きな声で挨拶をすると、それに連られるように「こんにちは!こんにちは!…」長い隊列が通り過ぎるまで、それが延々と繰り返される。
本通り商店街を東へ向かうと、観光客も少なく落ち着きのある町の風情を味わう事ができる。電柱を撤去し、一本の植栽にも気を配るほど整備された倉敷川沿いとは対照的な、どこか生活感が滲み出た町並みが続いている。シックな帽子店、竹細工職人の店、間口の狭い小料理屋など、地に足の着いた感じが何ともしっくり来る。
倉敷「夜物語り」
薄暮を過ぎても客足が途絶える事はなく、ライトアップされた美観地区は幻想的な風景を見せてくれる。江戸時代の天領だった頃には、ロウソクかアンドン程度の灯りしか無かったのだから、当時の人たちがこんな綺羅びやかな町並みを見たら、どんな反応をしただろうと妄想を巡らせながら、川辺の柳のように、町をゆらゆら散策した。
美観地区の中心に来た頃、赤い電球のついた消防団の蔵が開かれ、中から小型のポンプ車が出て来た。回転灯の赤い光の帯が、漆喰壁を往き来して何だか忙しない。数名の団員がホースを引きずり出しながら倉敷川に掛かる中橋へ走ると「放水!」のかけ声が響き渡る。
細い路地が編み目のように巡る美観地区では、万が一火災が起こった時、大型の消防車はあまり役に立たないかも知れない。観光客が浮かれる陰で、この町を守る若者達が夜の放水訓練を行っていた。ホースの継ぎ目やポンプの水圧調整などを点検しながらの放水が続き、30分程で訓練を終えた。手際良く撤収作業を終えると何事も無かったかのように、また静寂が戻って来た。
夜9時。倉敷はあの観龍寺の“時の鐘”の音とともに眠りにつく。
新しい倉敷の街
お仕舞いに、全く違う表情を見せる倉敷駅北口の様子をご紹介しよう。北欧風の時計台が印象的な、倉敷の新しい顔である。このゴージャスな雰囲気の駅前広場も大勢の人で賑わいを見せていたが、さて、あなたはどちらの倉敷がお好みだろうか。
明日は小学生の笑顔がいっぱい!
「トヨタ飛行船エネルギー教室」をお伝えします。
お楽しみに。
カテゴリー: ECOMISSION2013,岡山県
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