6月 17日 2013

太陽望遠鏡を準備して出迎えてくれた「那珂博士」

太陽望遠鏡を準備して出迎えてくれた「那珂博士」

映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」では、天才科学者ドクの発明したタイムマシン「デロリアン」が、生ゴミを燃料に時間を自由に行き来する。生ゴミをパワーに換える装置「ミスター・フュージョン」は、太陽や星が輝き続けるのと同じ“核融合”を想定していた。これは映画の中だけのおとぎ話だろうか。

実はこの数年来、核融合エネルギーの実現に向けて、世界各国の英知と技術の粋を集めたプロジェクトが、大きく動き出している。今日は、“核融合”という一般には難解とも思える未来のエネルギーに迫ってみたい。

地上に太陽を

地球から太陽までの距離は約1億5000万km。ものすごく遠いにも関わらず、朝日が上った途端に強烈な光と共に、ぽかぽかとした暖かさを届けてくれるのだから、恐ろしく莫大なエネルギーの塊に違いない。太陽光発電は当然だが、自然エネルギーと呼ばれる風力発電も水力発電も、太陽が地球に届けたエネルギーを利用しているものだ。

「もしもコントロールできるような小さな太陽を地球上に作れたら」

これを実現しようという研究が進められている茨城県那珂市にある那珂核融合研究所を訪れた。梅雨の晴れ間に恵まれた澄んだ青空には、ギラギラとした太陽が輝いている。

今日の太陽。プロミネンスの高さは地球20個分!

今日の太陽。プロミネンスの高さは地球20個分!

那珂核融合研究所に到着すると、白ヒゲの“那珂博士”が出迎えてくれた。そして、大きな望遠鏡を覗きながら開口一番、

「今日は凄く出ていますよ。こんなに大きいのは珍しいですよ!是非覗いてみてください。」

何事かと接眼レンズを覗き込むと、オレンジ色の丸い太陽の周囲に、ヒゲのようなプロミネンスが立ち上っている。聞けば、プロミネンスの高さは地球20個分もあるという。“核融合”を知るには、まず太陽を知る事から解説がスタートした。

質量差がエネルギーを生む

那珂博士の案内で核融合展示施設に入ると、簡単な実験装置やイラストを多用したパネル、先端技術が注ぎ込まれた融合炉の現物などが上手くレイアウトされ、順路を追って見て行くと、中学生でも十分に“核融合”が分かる工夫がなされている。解説付きで展示を見たおかげで「核融合」を簡単な言葉で伝える事ができるようになった。

反発し合う軽い物どうしを、凄く高温の中で、凄く速いスピードでぶつけると、くっついて重いものに変わる。

そこから膨大なエネルギーが生まれるのは、アインシュタインの有名な法則から。

エネルギー = 質量差×光の速度の2乗

重量差はわずかでも、光の速度(秒速300,000,000m)の2乗を掛けるので、もの凄く大きなエネルギーが生み出されるという訳だ。

ただし、凄く高温とは1億℃を超える温度、凄く速いとは、イオンの場合なら東京〜ソウル間を1秒程度で到達するスピードと、想像もできない程の高いハードルに、実現不可能な空論と揶揄される事もあったという。

だがもしも実現できれば、海水中にほぼ無尽蔵にある重水素とリチウムを原料として、1リットルの海水から250リットル分の石油と同じエネルギーを取り出すことができるという。これは、バスタブ1/4程度の海水とノートパソコンに含まれるリチウムで、一般家庭30年分のエネルギーを生み出せるという計算になる。

“核”と聞くと気になるのが安全性だが、そもそも核融合を起こす環境を安定的に作り出すのは難しく、燃料の供給を止めれば、すぐに反応が止まるため暴走する事は無いのだ。

開発は次の段階へ

数々の困難に挑み続けていた世界中の研究所にも少しずつ成果が現れはじめる。そんな中、この那珂核融合研究所がJT-60という実験炉で世界最高温度、5億2千万℃という記録を出してギネス認定を受け、開発は大きく前進を遂げた。

現在の核融合エネルギー開発はさらに次の段階へ進んでおり、日本を含む各国が協力している国際熱核融合実験炉ITERがフランスに出来る。ここ那珂核融合研究所でも新核融合炉JT-60SAの建設が始まり、組立作業が進んでいるというので見学させて頂いた。

土台(クライオスタットベース:直径12m)が組み上がったTJ-60SA

土台(クライオスタットベース:直径12m)が組み上がったTJ-60SA

核融合炉からは、いわゆる放射性廃棄物は排出されないが、炉は放射能を帯びるため建屋内は管理区域に指定されている。厳格な管理の下、防護服と専用シューズ、ヘルメットを着用。線量計を身につけてゲートをくぐった。

螺旋階段を100段以上昇っただろうか。世界の英知と技術が結集する場所は、あまりにも広く騒然としていた。スペインから到着したという土台(クライオスタットベース)が設置され、イタリア製と日本製のコイルを入れる真空容器が置かれ、沢山のエンジニアが作業を続けている。各パーツは恐ろしく巨大だが、触れるほど近くで見ても芸術品のように美しい。

限られた時間のなかで、駆け抜けるように見学させていただいたが、半日を経過した今でも興奮が収まらないような貴重な体験だった。JT-60SAの完成は数年先になるとの事だが、ここから生み出される新たなデータが、2050年の実用化に向けた夢の未来エネルギー“地上の太陽”に貢献する事は間違いないだろう。

「地上に太陽を」那珂核融合研究所訪問

時間が取れずに慌ただしい訪問でしたが、那珂博士はじめ、研究所のみなさまには大変お世話になりました。ありがとうございます。



カテゴリー: ECOMISSION2013,エネルギー,茨城県

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