高松から本州へ渡る前に、どうしても立ち寄りたい場所があった。2年前にGAZOO mura 塩江を訪れた時、「塩江のホタル」「塩江ツリーハウス体験場」などの調整役として、大変お世話になった「ホテルセカンドステージ」の薮内さんとの別れ際に交わした“次に来る時にはこちらに宿泊します。”という約束の言葉がどうしても気になり、もう一度訪問する事にした。
地元での人望も厚く、機転の効く薮内さんの事。きっと面白い話題を提供してくれるに違いないとの期待を胸に、瀬戸内海へ注ぐ香東川沿いの塩江街道を遡った。
香東川と内場川が合流する深い森に囲まれた風光明媚な塩江は、GAZOO.comが提案する、インターネットとクルマを通じて、マチで暮らす人々にムラでしか味わえない感動体験をナビゲートし、出会いの輪を広げて日本を元気にしようという取り組み「GazooMura(ガズームラ)」に選定されている。
全国に58あるムラの中でも、エコミッションで再び訪れた場所は過去に2カ所しかない。塩江街道を登るほどに、山は高く、谷は深くなり、空気が澄んでくるのが体感できる。ゆるやかなカーブを曲がった先に、ホテルセカンドステージが見えてきた。フロントへ向かうと、薮内さんが笑顔で出迎えながら “ 面白い人がいるんですよ。” と切り出した。
「ここから5分ほど上流の川沿いにある古い民家に住んでいて、自給自足の生活を続けているんです。」
これは面白い!とばかりに、すぐさま支度を整えて訪ねてみる事にした。
自立エネルギーを実践する修行僧?
街道筋から渓谷へ徒歩で下り、小さな橋を渡るとゲートが設けられ手書きの札が掲げてある。
“馬用です。お手数ですが開けてお入りください。十亀”
ひとりずつ潜るようにゲートを抜けてさらに進んだ農地の先に、赤い屋根の民家が見えて来た。玄関先で声を掛けると、まるで修行僧のような男性が現れた。
一年前に神奈川県葉山町から引っ越してきたという十亀(そがめ)さんは、たまたま農地のある民家を探していて、この物件と巡り会い、縁も知人もいない塩江に移住してきたという。電気も水道もガスも無いこの場所で暮らすには相当の決意が要ったのではないのか訪ねると、“こんな暮らしを実践してみたいと思ったんです。” と、単純明快で潔い言葉が返ってきた。
十亀さんは、いわゆる“世捨て人”ではない。本業のカメラマンとして生計を立て、地域とのふれあいも大切にしている。この日も、
「これから会合があるので、集会場へ出掛ける前にごはんを炊く所です。」
参加者のために持参するごはんを、薪のかまどで炊き始めた。手慣れたかまどの扱いを見ていると、護摩を炊き上げる僧侶の姿に見えてくる。十亀さんはかなり“イケ”ている。
熱源はすべて薪を使い、水は敷地を流れる清らかな沢から。屋根にはソーラーパネルが2ユニットが設置してあり、バッテリーに蓄電して夜間の照明に使っているし、トイレットペーパーすら敷地内に生える自然の葉っぱを使うという徹底ぶり。自前のエネルギーで暮らす十亀さんだが、さらに近々クルマから馬に乗り換えようとポニーを調教中で、完全に独立したエネルギー生活を目指そうとしていた。
聡明な語り口の十亀さんは、ストイックというよりも、どこまで自給自足を実践できるか、自身が実験台になって楽しんでいるように見える。薪で湧かした五右衛門風呂に星空を眺めながら浸かり「究極の自給自足」について思いを巡らすのは、さぞかし気持ち良いのではないだろうか。
十亀さんがエネルギー自立を果たそうとしているように、川の町、塩江も新しい取り組みに着手していた。急流で水害をもたらしてきた内場川に建設されたダムは、現在のところ治水の目的のみに利用されているが、この通常放水を使った水力発電計画がそれである。塩江町の規模であれば自前のエネルギーで自立する事が十分可能なのではないだろうか。すでに県の許認可が降りたというから、この先ますます楽しみな、大小ふたつのエネルギー事情である。
自前のエネルギーといえばプリウスPHVも、電気のない所で活躍する心強い相棒だ。これまでにも各地で行ってきた“野外の床屋さん”を、見晴らしの良い湖畔で開店する事にした。
ホテルセカンドステージの薮内さん またもやお世話になりました。
十亀さん どこまで自給自足できるか、楽しみにしています。
赤松さん おいしいケーキをたくさん作ってください。
お世話になった塩江のみなさん ありがとうございました。
GAZOO mura 塩江 再訪